ページ番号を入力
本文
日本の人工林は、十齢級を超えた、いわゆる高齢級人工林が全人工林面積の半分以上を占めています。本県においても、高齢級化が進んだ人工林を循環利用するために、主伐・再造林が進められています。
一方で、再造林面積の拡大により、今後、保育作業を必要とする森林面積が積み重なるように増加し、労力の不足が懸念されます。
本稿では、林業事業体が行う保育作業の中でも、直近で作業量の増加が見込まれる上、夏場に作業が集中し肉体的な負担も大きい「下刈り」の省力化に焦点を当て、二つの試験地で実施した、全刈りに対する低コスト下刈り手法の有効性に関する調査について紹介します。
【試験地(1)】坪刈り
下刈り現場で作業者に同行し、動画撮影により作業時間の調査を行いました。合せて、植栽木の成長量調査を行いました。
試験地(1)で作業を行う林業事業体は、普段下刈りの際、作業性確保の面から手鎌で植栽木の周囲を坪刈りした後、刈払機で全刈りを行っています。このため、単純に全刈りをやめ、坪刈りに転換することで、従来に比べ作業時間が半分から三分の一程度となりました。
植栽木の成長量調査は、下刈りから約五か月後に実施しました。結果、植栽木の樹高・地際直径のいずれについても、下刈り手法による有意差は確認されませんでした。
【試験地(2)】筋刈り・坪刈り
刈払機を用いた筋刈り(写真1)、坪刈り(写真2)の省力効果を検証するため、二名の作業者を対象に動画撮影を行い、作業時間を調査しました。
結果、全刈りに対して、筋刈りは約四割~五割、坪刈りは約五割~七割の時間で作業が完了しました。二名とも大幅に作業時間が短縮されたため、経験年数を問わず、筋刈りおよび坪刈りの導入は、作業の省力化に効果的と考えられます。
また、全刈りは二名間での作業時間の差が最も大きく、経験年数が、作業時間に大きく影響すると考えられました。
写真1 刈幅1.0mでの筋刈り作業の様子

写真2 植栽木周囲の坪刈り作業の様子
低コスト下刈り手法の導入は、労働力の削減という観点からすると、非常に有効だと考えられます。
一方で、筋刈りや坪刈りを行うことで、刈払われず残ってしまった雑草木が、植栽木の成長に影響を与える可能性については、慎重に検討する必要があります。今回の試験では、下刈りから五か月後時点での植栽木の成長量について、全刈りと坪刈りの間で有意差はみられなかったものの、長期的な影響は不明確です。
今後は坪刈りのみならず、筋刈りによる植栽木への影響も含め明らかにするため、研究を続けていきます。
きのこ・特産課 井嶋 陸