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令和6年7月、多くの方が待ち望んでいた「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録が実現しました。
そこで、これまで登録に向け尽力してくださった方々や、佐渡の地域づくり、地域活性化に取り組んできた方々などにインタビューし、世界遺産登録についての喜びの声やこれまでの苦労、将来世代に向けた期待や助言などをお聞かせいただき、その大切な思いを佐渡地域振興局から発信していきます。
【佐渡U I ターンインフォメーションセンター 熊野 礼美(くまの れいみ) さん】 |
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A:世界遺産についてはここ数年ずっと登録の話が出ていて、佐渡の中で長く登録に向けて活動してきた方がたくさんいらっしゃることは知っていたので、登録されて良かったと感じています。私は直接登録推進に関わってきたわけではありませんが、県外の友達や家族など周りから意外にもたくさんのお祝いの連絡が来たことから、「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録が全国的なニュースであったことを改めて実感しました。
A:金山はもちろんですが、「朱鷺との共生」や「環境に優しい島づくり」が佐渡の魅力だと考えます。絶滅危惧種である朱鷺がこんなにもたくさん復活しましたが、そんなすごい場所は全世界探してもなかなかないのではないでしょうか。これは世界にもアピールできるすごいことだと思います。
ジオパークや朱鷺との共生、そして金山をはじめとする歴史がこのひとつの大地の上にある佐渡、その全部をストーリーとして伝えていけると良いと思います。佐渡は日本の縮図と言われますが、日本だけでなく地球の歴史の縮図としても位置づけられると思います。
また、佐渡は本当の意味で自然と共生できていると感じます。私は山登りが大好きなのですが、同じ日本でも地域によっては絶滅危惧種の植物を守るために檻や柵を作って保護しているところもあり、守っている反面、区別しているようにも感じられます。一方佐渡では、例えばカタクリなどの花は自然の中にそのままあり、囲って保護しているわけではなく、自然と共生しています。
加えて、佐渡の山も他とは全然違うと思います。佐渡の山は、海抜0メートルから山がせり上がっているので、標高1000メートルでも非常に高さがあるように見えます。このような景色は他ではなかなか見られません。
このように自然と一体になっていると感じられるところが、佐渡の魅力だと思います。
A:四季はもちろん同じ季節の中でも様々な風景を感じることができること、海岸線一つとっても日本にあるすべての海岸線(砂浜、砂利浜、断崖絶壁など)がそろっていること、また歴史的な身分制度から見ても士農工商や公家までいたことなど、この面積の中にすべてが凝縮されている場所は日本中探してもなかなかないのではないかと思います。
一方、残念なのは、そうした佐渡ならではの魅力をうまく伝えられる、紡いでいけるガイドのような存在の方が少ないことです。もちろん、個々に発信してくれる方はいますが、これまで以上に佐渡全体として今も昔も普遍的で変わらない佐渡のストーリーを伝えていけたらと思います。非常に長いストーリーにはなりますが、「ロード・オブ・ザ・リング」が長くても読みたくなる物語であるように、佐渡も「金山の話」、「ジオの話」など素晴らしいストーリーがあることから、各章の内容が全てつながって見えるようにすることで、佐渡という存在が壮大なひとつの長い歴史・ストーリーとなり、これまで以上にたくさんの方々に興味をもってもらえるようになると思います。
今は魅力がたくさんありすぎる故にまとまりのないような状態にも見えますが、まずはそれを整理することから始めていけたら良いと思います。
A:島内全体が移住者ウェルカムになっていくと良いと思います。今年度は移住者の定着支援に力を入れて取り組んでおり、定着支援の交流会を二本立てで行いました。
一つ目は同じ趣味や興味のある友達を見つけられやすいようにテーマを持った交流会です。ボルダリング、モルック、魚さばきなどを行いました。
もう一つは色んな人の輪を広げられるように誰でも参加制限なしのpotluck交流会です。potluck(ポットラック)とは一般持ち寄りのパーティーのことで、この交流会でも参加者が持ち寄り食べながら会話を楽しんでもらっています。これは岩谷口、小木でも行いました。今年度の反省点も踏まえて、来年度は定着支援に向け、より良いものを開催したいと考えています。
今年度は「交流会を開催しました」という情報を公開すると、「次回はぜひうちを会場に使ってほしい」という、移住者支援に興味を持ってくれている方が次々と声をかけてくれるようになりました。交流会もただフリースペースを使うのではなく、オーナーがいて、交流ができるような場所を選んでいます。私たちの代わりにお話してくれそうなオーナーさんがいてくれることで、その場所がその後も移住者を含めた佐渡のみなさんの交流の場になるように、場所選びにも工夫をしています。そのため、一緒にやりたいと言ってくれている方と来年度も引き続き協力して行っていきたいと考えています。国中地域にはこのU I ターンインフォメーションセンターがありますが、今後は他の地域でもその輪を広げ、今年よりもさらに良いものを提供していきたいです。
A:「まずはやってみる精神のある人」が合うと思います。佐渡に引っ越すというのも大きなチャレンジです。ただ自分のことや、自分のやりたいことにとらわれすぎずに、佐渡で新しい人に出会って、新しいことに挑戦するのも良いと思います。
また、一人で頑張りすぎずに助けを求められる人も良いと思います。佐渡には周りにいろいろなことができる人たちがいるので、自分だけが頑張らなくても良いんです。私が地域おこし協力隊として活動していた時に、全国の地域おこし協力隊の研修会で、「できすぎ君」ではなく、「のび太君」のような人になってください、と言われました。周りに助けも求めながら、頑張る時は頑張り、義理人情に厚い、そんな人を求めていると言われて、すごく納得したことを覚えています。
A:食べ物がおいしいこと、人が優しいことを佐渡の魅力として挙げる人が多いですね。食べ物がおいしいというと、そんなことで、と思うかもしれませんが、佐渡の料理を食べて胃袋をつかまれた方は結構いるのかなと思います。
私の佐渡移住のきっかけは、「山」でしたが、移住された方のきっかけは他の趣味だったり、最近だとYoutuberだったりと様々です。ただきっかけはあくまできっかけであり、暮らしとあまり直結しませんが、食べ物は暮らしに直結するので、「佐渡の美味しい料理を食べてQuality of Life(暮らしの質)が上がるのでは」、と感じるのかもしれないですね。
また、小さいお子さんを持つ方は、「佐渡の方は子どもに優しい」と言いますね。子どもの数が少ないからというのもあるかもしれませんが、バスに乗る際・降りる際も、都会のせかせかした感じと違い、佐渡ではみんなが見守ってくれるような雰囲気が過ごしやすいと感じるのではないかと思います。
A:若い人で佐渡に帰ってきている人や新たに定住する人もかなりの数いますが、その中には必ずしも地域に根差した生活をしていない人もいらっしゃいます。地域に人が足りないというのは、地域活動に従事する人がいないという意味も含まれていると思います。ただ単に人口だけ増やすことを目指すのではなく、地域コミュニティを守るために地域活動に従事してくれるような、そういう人が増える工夫が必要になってくると感じています。
また、全体の人口が多くないため、佐渡の学生は、様々なタイプの大人を見る機会が十分にあるとは言えず、「こんなかっこいい大人になるんだ」というモデル像が見えにくいのではないかと思います。だからこそ島外にも出ていいと思いますし、そこで様々な人に会って、いろいろなことを吸収すれば良いと思います。そうした中で、どんな大人になりたいかイメージをもち、「結局いろいろ大人を見てきたけど、満員電車でくたびれて通勤するより、佐渡に住んで、鬼太鼓をしたり、休日は友達とバーベキューしたりして過ごしたい」や「自分が子どもの頃に出会った佐渡の大人は生き生きしていたなあ」と感じてもらえたら嬉しいですし、それが佐渡の未来にとって必要なことだと思います。
私自身、今民謡をやっており、私より上の世代の方が活動していることが多いのですが、ある時、私より若い人が見に来てくれた際に「熊野さんが唄っているのがかっこよかったです」と言ってくれました。その後練習にも来てくれて、これがつないでいくということなのかなと感じました。自分自身もつないでいくということについて、意識を持ってやっていこうと思っていたところです。
佐渡には、社会科の資料集に載っているような、昔から受け継がれてきている伝統の技などを身につけている人たちがまだ残っていると感じます。他の地域では受け継がれずに廃れてしまった場所もありますが、佐渡では上の世代の方々から教われるタイミングがまだまだあると思います。私たち世代も学んで次世代につなげていきたいですね。
A:やっぱりたくさんの山野草が見られる「アオネバ登山道」ですね。私が初めて佐渡に来たのはある年のゴールデンウィークでしたが、まだ少し雪が残っていて、雪割草や、シラネアオイ、カタクリなどこんなにもたくさんの山野草が見られるということに驚いて、それが佐渡に興味を持ったきっかけでした。最初は花を見ることがメインでしたが、佐渡の方に教えてもらって、だんだんと山菜も採るようになっていきました。
おすすめの佐渡の食べ物は「お刺身」です。特定のこの魚というよりは、季節のものが好きで選んでいます。また佐渡に来て初めて「わかめのしゃぶしゃぶ」を知りました。生わかめを頂くことがあり、そのままだと長いので料理ばさみで切って、しゃぶしゃぶしてポン酢でいただくと、シャキシャキしていてとても美味しいんです。
A:次の世代に期待するより前に、私たち今の世代がもっと頑張って、次の世代を楽にさせてあげたいと思います。「佐渡島の金山」が世界遺産登録されたことで、これからたくさんの方をお迎えすることになりますが、現在はまだ交通インフラや観光案内など、足りないことが多すぎると思います。世界遺産登録を経て、佐渡がどうなっていきたいかというビジョン設定は少なくとも今の世代で完了させなければいけないことだと感じています。
また必ずしも新しいことをしなくても、景観が綺麗なだけで、また来たいと思ってくれる人がたくさんいることから、今のままの素晴らしい佐渡の景観を維持することも大切だと感じています。岩谷口での移住者交流会で、2週間滞在しているドイツ人の方にお会いしました。「2週間いたい」という風景・魅力が佐渡にあるんだと実感しました。何をするわけでもないけれども、リラックス、デトックスするために佐渡にいたいと思ってもらえる、そんな佐渡の景色をこれからも守っていきたいと思います。
聞き手:佐渡地域振興局 本間副局長、江口主事