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季節は夏。新潟県南魚沼市大和地区に広がる八色原。春には桜と蓮華ツツジ、夏には向日葵(ヒマワリ)、秋には秋桜(コスモス)、冬は雪景色が季節のうつろいとともに越後三山に囲まれた平地を彩ります。
この地で栽培されている八色西瓜(やいろすいか)は南魚沼市の夏の風物詩として愛され続けています。新潟のブランドスイカとして多くのスイカ好きを惹きつける八色西瓜の職人になりたいと言う移住者農家 八木知之(ともゆき)さんを訪ねました。
南魚沼市は八海山を含む越後三山を擁する地域ですが、土壌には大きな特色があります。黒色火山灰土壌(黒ボク土)は、保水性、保肥力が劣り(裏を返せば、水はけが良い)、養分も少ない「痩せ地」の特徴を持ちます。加えて盆地による昼夜の寒暖差。南魚沼は日中の気温が高く、スイカはたっぷりと光合成し、夜は涼しいので根をしっかり下ろしてゆっくり休む。これらの条件がスイカの栽培には適していて、糖分を実にため込んだ品質の高い八色西瓜を作ります。
八色西瓜の栽培が始まったのは大正時代末期。百余年の歴史ある作物ですが、生産が拡大した理由は昭和45年の減反政策です。農家が困窮を乗り切るために、南魚沼にはスイカ畑が増えていったのです。
適地適作、スイカ栽培に適した土壌と寒暖差のある環境で育てられた八色西瓜は南魚沼産コシヒカリの名とともに全国へ広がり、日本一の生産量を誇る熊本県のスイカにも劣らぬ品質を保持し続けています。
毎年変わる環境と気候、それでも同じ品質の八色西瓜を出し続けることができる熟練のスイカ農家を八木さんは目指していると言います。
「熟練のスイカ農家の方々を見ていると、7年目の自分はまだまだだと思います。それでも、最近ようやく『スイカのス』くらいは見えてきたかな。僕はいま41歳ですけど、あと30回くらいしかスイカを作れないんですよ。それまでにスイカの全てのロジック(論理)を理解したい。胸を張って誰もが美味しいと言ってくれるスイカを出せる『職人』になった時に何が分かるのかを体感したいんです。」
「今年はなんでだろうな、玉(スイカ)の付きが良くない。5割を下回っているかもしれません。」
豪雪地の南魚沼ですが、八色原は越後三山から吹く風の通り道になっており、4月には雪が消える。そうしたら土を起こし、収穫期をずらすために順繰りに苗の植え付けを始める。八色西瓜の苗は1か月ほどで蔓が伸び、育てる蔓を選定して限られた玉数しか実らせない。
全て手作業で受粉をさせているので、例年だと雨で流れない限りは、ほとんどが玉を付けるはずだが、今年は付き方が悪いようだった。
「日照時間が足りなかったのかもしれません。水が足りなかったのか、それとも肥料か。同じ南魚沼とはいえ、土壌も土性も場所によって違えば天気も変わるので、結局は人の真似ばかりではなくて自分の中にその土地の特性を蓄積していかなきゃならない。」
八色西瓜は露地栽培の作物の中でも、もっとも難しいとされる品目の一つです。緑の皮に覆われた実の熟し方は外からでは分かりません。八色西瓜は完熟出荷にこだわるブランドで、酸味が抜けつつも、熟しすぎないタイミングで収穫することで、糖度と独特のシャリっとした食味が出ます。出荷時の検査でも独自の検査基準を設けて、外観・空洞・熟度・うるみ・糖度をセンサーで測定して格付けを実施する等、品質の高い外れのないスイカを出荷しています。
「積算温度で収穫適期は大体予想できるのですが、今日収穫するのか、明日収穫するのか、最後の最後は朝決めます。そのためにスイカを叩いて、その音で判断するんです。空洞があるものもあれば、積算温度は達しているけど、まだ酸味が抜けきっていないものもあるので、叩いて音を聞き、割って確かめて、その積み重ねで見えない部分を理解します。」
熟練の農家だと叩いただけでレントゲンのように中の様子が分かるといいます。数百、数千個のスイカを割り続け、その蓄積が耳を育てます。
「自分も音が分からなくなると割って確かめます。これは空洞かな…と思って割ってみると綺麗な断面だったこともありますね。」
そう言いながら、畑の八色西瓜を叩いていく八木さん。「これは空洞ですね。」という音を聞くが、あまり違いは分かりませんでした。
ひときわ大きなスイカを叩いた時、八木さんが話します。
「うん、これはいいんじゃないですか。大きさも良いし、割ってみましょう。」
そういって、3Lサイズだという八色西瓜を叩きながら運びます。たしかに「タンタンタン」と小気味良く締まった音が短く鳴りました。
「八色西瓜は最大で5Lサイズまであります。大きければ大きいほど、栄養を多く吸っているので糖度も高くなるんです。食味の特徴であるシャキシャキした歯ざわりも強いですしね。でも、小玉スイカも美味しいんですよ。」
大玉の八色西瓜の並ぶ横には、出荷間近の小玉スイカが並んでいました。
『八色西瓜』と呼ばれているスイカは、一般的に大玉のスイカです。小玉スイカも多く市場に出回っていますが、大玉と小玉では食味や食感に違いがあるのだといいます。
「小玉スイカの方はややソフトな食感で、甘さを感じやすいという特徴がありますね。」
小玉スイカの贅沢な食べ方として、果肉を丸くくり抜いて、皮を器にして寒天と一緒にフルーツポンチにする食べ方などもレシピサイトには紹介されています。
大玉の八色西瓜と小玉スイカ。それぞれに専用の品種を選定して栽培しています。南魚沼地域では、小玉スイカは「八色っ娘(やいろっこ)」というブランド名で販売されています。
「大玉スイカは大きいほど甘いですけど、小玉スイカは甘さが凝縮されている感じ。皮も薄いですし、特徴が全然違うんです。」
綺麗に割れた空洞のない断面。実は皮のふちまで真っ赤に熟していました。スイカはこのような完熟状態で収穫して出荷します。追熟することはありません。冷やしすぎも禁物で切る前であれば冷暗室のような場所に保存して、食べる2~3時間前に冷やして食べるのが良いそうです。
「いいものができた時はね、本当に嬉しいんですよ。私はもともとは農家ではなかったですから。土にも触ったことがないようなシステムエンジニアだったんですよ。それで作物の中でも最高レベルに難しい八色西瓜を作って、最初の頃は良い八色西瓜なのか悪い八色西瓜なのか区別すら出来ませんでした。それがようやく、皆さんから言ったらそこそこ、私の中では最高の八色西瓜が収穫できはじめて、こんなにみんなが『美味い』と言ってくれるものが出来たのか、スキルとして身についたのかって実感できることが、やり甲斐です。」
そう話す八木さんは、本当に嬉しそうな顔で笑います。
「南魚沼市の方々は八色西瓜をよく知っているとは思いますが、いっぱい食べて欲しいです。関東や関西では数が少なくて高級スイカと言われていますが、近場で買えるスイカは手の届かない値段ではありません。空洞ありスイカもスーパーで出回っていますが、味に変わりはないですので、気にせずに食べてもらいたいですね。これからも夏の一つの楽しみとして、待っていてください。」
南魚沼の農業は、また次の夏へと受け継がれていくのでしょう。
撮影後に食べた八色西瓜。皮のきわまで甘く、シャリシャリとした食感を楽しんでいると、同行していた職員の方が糖度計を取り出しました。
なにごとかと思って覗いてみると、糖度14.1度。流通している大玉の八色西瓜は11度でも甘いとされ13度ともなれば逸品です。
「この夏で最高の一玉かもしれないですよ。」
食べた瞬間の感動は忘れられません。これからも最高の八色西瓜を作り続けていただきたいですね。
取材日:2020年8月4日
八色西瓜(大玉)・八色っ娘(小玉) 【八色西瓜(大玉)】
【八色っ娘(小玉)】
7月上旬~8月中旬 |
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あぐりぱーく八色 住所:新潟県南魚沼市浦佐5147-1 あぐりぱーく八色ホームページ<外部リンク> |
四季味わい館(道の駅南魚沼「雪明かり」) 住所:新潟県南魚沼市下一日市855 「四季味わい館」ホームページ<外部リンク> |
市内直売所やスーパーでも販売しています。