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ブナは冷温帯における主要な優占種であり、本県でも苗木の需要がある、種苗の活用の場が広い樹種の一つです。ところが、ブナの豊作は数年に1回で、種子の生産量の変動が著しいため、豊作後の数年間は新しい種子の供給(採種)が期待できません。そのため、苗木の成長を制御することによって、需要に応じた適正サイズの苗をストックする技術が必要とされています。
そこで、ブナ苗木への成長抑制効果が報告されている、寒冷紗による被陰処理と、根の成長期である夏期の根揚げ処理を併用し、それらの処理による播種後4年間の成長への影響を調査したのでご紹介します。
調査は十日町市の生産者の苗畑で行いました。豊作となった2011年の秋期に播種したブナ実生苗を調査対象として、遮光率30%、70%の寒冷紗をかけた被陰区と、全天条件の対照区を設定し、それぞれについて、根揚げ鍬を用いて根揚げをした処理区と無処理区を設定しました(写真)。
写真 被陰処理と根揚げ鍬による根揚げ処理
※ 被陰処理は2012~2013年の6~9月に実施
※ 根揚げは2012~2015年の各年1回、6~7月に実施
2015年までの4年間の調査の結果、遮光率70%の被陰区において、苗長及び根元直径の成長が低く推移する傾向が見られました(図)。一方で、遮光率30%の被陰処理では、苗長、根元直径ともに成長抑制の効果は低く、処理終了2年後には、対照区を上回る傾向が見られました(図)。なお、根揚げによる成長抑制効果は確認できませんでした。また、調査期間中の苗木の生残率は、全体で8割以上となりました。以上の結果から、ブナ苗木の成長抑制には、遮光率70%の被陰処理が有効であると考えられました。
図 対照区及び各処理区の平均苗長(左)と平均根元直径(右)の成長推移
今回の試験では、ブナ苗木の根揚げによる成長抑制効果が確認できなかったため、今後、根揚げを行う時期や回数による成長への影響を評価したいと考えています。また、ブナのコンテナ苗での調査(本誌821号)から、肥料の有無による成長への影響が確認できたため、現在、肥培処理(施肥量)による成長調節について検証中です。そして、それらを組み合わせたブナ苗木の適正サイズの維持及び形質調整について検討する予定です。
本調査を行うにあたって、育苗全般について新潟県山林種苗協会にご協力いただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
森林・林業技術課 伊藤 幸介