本文
【農業技術・経営情報】大豆・麦・そば:大豆ほ場の酸性土の矯正について
1 大豆ほ場での土壌pH低下
作物の生育は、土壌の酸性の強さ(pHで表す)に左右されるため、土壌pHを適正に保つことは栽培管理の基本です。大豆の場合、生育に適した土壌pHは6.0~6.5ですが、近年、全国的に大豆の平均単収が低迷している一因として、大豆ほ場での土壌pHの低下が指摘されています。新潟県内でも各地の転換畑大豆ほ場で土壌pHを調査すると、土壌pHが5.5~5.0と低い酸性土のほ場が多く、一部で5.0を下回るほ場も確認されています。
2 土壌pHの低下(酸性化)要因
転換畑大豆ほ場で土壌pHが低下する要因として、 (1)微酸性である雨水による塩基類(カリウム、カルシウム、マグネシウム)の溶脱(近年の酸性程度が強い酸性雨や酸性雪は、土壌の酸性化を助長する恐れがある。)(2)硫安、塩安、塩化カリなど土壌を酸性化する肥料の多投、(3)pHの変化を抑える効果のある有機物の田畑輪換に伴う減耗、(4)肥料高騰に伴う土づくり肥料施用量の減少などがあげられます。
3 大豆生産に及ぼす土壌pH低下の影響
土壌pHが低下すると土壌中の塩基類が下層に溶脱し、リン酸はアルミニウムと結合して溶けにくくなるため、大豆への吸収が抑制されます。また、根粒菌の活性に関係する微量要素のモリブデンは、酸性になるほど吸収が抑制されるため、根粒菌から供給される窒素量が低下します。このように、土壌pHの低下に伴い大豆は栄養分の吸収が抑制されるため、生育が阻害され収量は低下します(表1)。また、生育初期に見られる大豆茎疫病は、過湿土壌やpH5.2前後の酸性土壌において発病が助長されます。
土壌のpH | 好適pHと比べて想定される減収程度 (注 1) | |
---|---|---|
畑土壌 (%) |
河川流域の沖積土壌 (%) |
|
4.6 ~ 5.0 | 30 ~ 50 | 15 ~ 20 |
5.1 ~ 5.4 | 20 ~ 30 | 10 ~ 15 |
5.5 ~ 5.7 | 10 ~ 20 | 5 ~ 10 |
5.8 ~ 6.0 | 0 | 0 |
注 1)pH6~6.5 程度の好適下でのダイズ収量に対する減収程度を示す。
2)Arkansas soybean handbook(2006)による
3)島田信二:水田土壌の酸性化(低pH化)とダイズの生産性 農業技術体系作物編6
4 pH矯正の方法
耕起前に土壌pHを測定し、適正範囲のpH6.0~6.5 を下回る場合は、石灰質肥料を施用してpH矯正を行います。適正範囲に矯正するために必要な石灰質肥料の量は、中和石灰量を測定して求めますが、めやすは土壌タイプ別に表2を参考にして下さい。また、石灰質肥料の種類によって、pH矯正の効果が異なりますので表3を参考にしてください。なお、土壌pHが極端に低く、pH矯正に多量の石灰質肥料が必要な場合は、数年に分けて施用してください。
土壌タイプ | 炭酸石灰施用量(kg/10a) | 同左平均(kg/10a) |
---|---|---|
沖積砂質土壌 | 60~100 | 80 |
三紀粘質土壌 | 110~145 | 130 |
沖積壌土・埴土 | 125~155 | 140 |
黒ボク土 | 230~265 | 250 |
注) 転作作物栽培指針 平成10年3月 新潟県農林水産部より
肥料名 | アルカリ分保証値(保証・下限) | 炭酸石灰の施用量を1とした場合の必要資材量比 | 効果の 遅延 |
土づくり上の留意点 |
---|---|---|---|---|
生石灰 | 80 | 0.66 | 速効性 |
|
消石灰 | 60 | 0.88 | ||
炭酸石灰 (炭カル) |
53 | 1 | やや 遅効性 |
|
苦土石灰 (苦土炭カル) |
55 | 0.96 |
注) 新潟県における土づくりのすすめ方 平成17年2月 新潟県農林水産部より一部改変
※参考文献
・島田信二:水田土壌の酸性化(低pH化)とダイズの生産性 農業技術体系作物編6(農文協)
・安田典夫:土壌pH農業技術体系土壌施肥編4(農文協)
・藤原俊六郎:新版図解土壌の基礎知識(農文協)
【経営普及課 農業革新支援担当 岩津 雅和】