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【農業技術・経営情報】病害虫:いもち病のほ場抵抗性と多肥栽培

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0352670 更新日:2021年2月1日更新

 イネは品種によりいもち病に対するほ場抵抗性の程度が異なり、弱から強までの評価がされています。しかし、ほ場抵抗性が中の「こしいぶき」も基盤整備跡に作付けするなど多肥条件の栽培になるといもち病が多発生しズリコミに至ることもあります。また、近年、作付けが増加傾向にある非主食用イネには品種特性として葉いもちや穂いもちのほ場抵抗性が中~やや強とされる品種もありますが、多肥で栽培されるため栽培暦などではいもち病の防除を徹底するよう指導されています。

 ほ場抵抗性を持った品種なのに、なぜ多肥栽培ではいもち病防除の徹底が必要なのかを解説します。

1 品種のほ場抵抗性

 品種のほ場抵抗性の評価は、いもち病が出やすいよう畑条件で晩植されたイネを使い、同一の施肥条件で栽培された基準となる品種と発病程度を比較して行われています。

 図は品種A~Xについて、畑苗代試験で評価したほ場抵抗性と、7葉期になったそれらのイネにいもち病菌を接種して出来た病斑の数を示しています。畑苗代試験で抵抗性が強いと評価された品種ほど病斑数は少なくなっていますが、病斑数の変化は連続的で同じ程度の抵抗性と評価された品種の中でも病斑数の多めの品種から少なめな品種があります。また、抵抗性強と弱の品種間では明らかな病斑数の違いがありますが、やや強と中、中とやや弱など評価の近い品種間では病斑数の差は大きくありません。このように品種の抵抗性は、大まかに品種の特徴を表していますが、絶対的なものではありません。

図1ほ場抵抗性の評価と接種によるいもち病の病斑数(柚木ら1970より作図)のグラフ
図1ほ場抵抗性の評価と接種によるいもち病の病斑数(柚木ら1970より作図)

 

 品種のほ場抵抗性の強弱は、主に同じ量のいもち病菌が感染しようとしたときに出来る病斑数の数と病斑の大きさ((ほとんど等しい)その病斑で作られる胞子の数)で決まります。

 図2は同一条件で栽培したイネに、いもち病菌を接種し各品種の病斑数を調査した結果です。ほ場抵抗性「強」の「トドロキワセ」や「中」の「こしいぶき」と、ほ場抵抗性「弱」の従来「コシヒカリ」の病斑数の差はそれほど多くありません。図3は病斑の長さと幅を調べた結果です。4品種のなかでは病斑の長さに差はありませんが、品種により病斑の幅が異なっており、病斑の大きさを表すと思われる長さ×幅は「わたぼうし」>「コシヒカリ」>「こしいぶき」(ほとんど等しい)「トドロキワセ」となっています。いもち病は新たに生じた病斑を伝染源として何回か世代を繰り返すので、感染の度にこのような差が少しずつ効いてきてほ場での発病程度の違いにつながります。

図2接種による病斑数の推移(作研平19)のグラフ
図2 接種による病斑数の推移(作研 平19)
葉令は、6月15日が約9葉、7月15日が約12葉。

図3各品種の病斑の大きさのグラフ
図3 各品種の病斑の大きさ(作研 平19)

 図4は、ほ場抵抗性の異なる4品種を実際にほ場において同じ施肥条件で栽培した場合の葉いもちの発病経過です。接種で病斑数が多く、病斑が大きい「わたぼうし」の発病が最も多くなるなど、ほ場での発病はほ場抵抗性の評価や接種試験などの結果を反映したものとなっています。

図4ほ場における病斑数の推移のグラフ
図4 ほ場における病斑数の推移(作研 平19)

2 施肥といもち病発生の関係

 施肥量を多くするとイネの葉色は濃くなり、いもち病が発生しやすくなることが知られています。図5は葉色の違うイネにいもち病菌を接種した試験の結果で、葉色によるイネの発病しやすさの違いを表しており、いもち病菌の接種時の葉色が濃いほど病斑数の増加程度が大きいことがわかります。この試験事例では葉色(SPAD)値が35~36から40まで4~5程度濃くなると、1回の感染で生じる病斑数は4倍になります。仮に1回の感染で生じる病斑数が4倍となり、その病斑を伝染源にしてさらに3世代増殖する場合を考えると、病斑数は葉色が濃くない場合の4×4×4×4で256倍にもなります。極端多肥栽培ではもっと葉色が濃くなることもあるため、いもち病の発病リスクは飛躍的に増大します。

 では、ほ場抵抗性が「強」の「トドロキワセ」や「中」の「こしいぶき」を多肥栽培したらどうなるでしょうか。多肥栽培により1回の感染で生じる病斑数が4倍になれば、図2の「トドロキワセ」や「こしいぶき」の病斑数は従来「コシヒカリ」より病斑数が多くなり「わたぼうし」に近くなると推定されます。このようにいもち病の発病程度は、施肥条件によって品種のほ場抵抗性の差を逆転するほど大きく変動します。したがって、多肥栽培におけるいもち病は、ほ場抵抗性が弱い品種だけでなくほ場抵抗性が強いとされる品種でも注意が必要です。

葉緑素計(SPAD-501)葉色値と罹病性病斑数との関係
図5 葉緑素計(SPAD-501)葉色値と罹病性病斑数との関係(原澤ら1991に加筆)
●:8葉期接種(1試験区のみ)、回帰曲線:破線は9葉期接種、実線は10~11葉期接種。

3 多肥栽培におけるいもち病の防除

 多肥栽培ではそれら品種の持っているほ場抵抗性の強弱に関係無くいもち病の多発生が予想されるので、もともとほ場抵抗性が弱くいもち病の出やすい「わたぼうし」と同様に、箱施用剤で予防的に葉いもちを防除する必要があります。しかし、箱施用剤もいもち病の発病を完全に抑えるわけではありません。通常の施肥量の栽培であれば、僅かな防除もれは実害につながらない場合が多いですが、極端な多肥栽培ではイネの感受性が高くなり、箱施用剤を施用してもいもち病の多発生につながる場合も想定されます。そのため、ほ場を観察して発病状況を確認し、必要に応じて葉いもちの追加防除を実施してください。穂いもちの防除は葉いもちの発生状況に応じて1から2回実施します。

【経営普及課 農業革新支援担当(病害虫) 石川 浩司】

 

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