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【農業技術・経営情報】畜産:早期収穫したイネWCSの栄養成分と嗜好性

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0351860 更新日:2021年2月1日更新

1 はじめに

 県内の酪農経営では、稲発酵粗飼料(以下「イネWCS」と略)において、繊維の消化性が高い粗飼料を求めており、また、刈遅れによる嗜好性低下への懸念などから、早刈りでの収穫・調製を望む声が多く聞かれます。
 そこで、早期収穫・調製したイネWCSの飼料成分を評価し、乳牛における嗜好性等を検討したので報告します。

2 調査(実証)方法

 県内WCS用イネ5ほ場(阿賀野市、新潟市、三条市、魚沼市、佐渡市)で早期収穫・調製したイネWCSの飼料成分分析(栄養成分・発酵品質)を行うとともに、モデル農場を設定し、乳牛における嗜好性等を給与実証しました。

3 調査結果の概要

(1)イネWCSの栄養成分・発酵品質

ア 栄養成分

 乳熟期をピークとして収穫・調製したイネWCSの栄養成分は、日本標準飼料成分表2009年度版に掲載の飼料用品種のイネWCSの刈り取り時期別の成分組成と比較すると、NDF(中性デタージェント繊維)含量が高い値を示しました。
 なお、熟期が進むにつれて、乾物中の粗タンパク質、粗脂肪、NDFが低下する反面、籾の充実に伴うNFC(非繊維性炭水化物)の増加が認められました。また同時に、TDN(可消化養分総量)の増加も認められましたが、その変化は大きくありません。

イ 発酵品質

 発酵品質の科学的評価法としてVスコア法を用いて測定しました。
 早期に専用収穫機でダイレクト収穫したイネWCSは水分含量が高いため、酪酸生成量が高まり発酵品質を示すVスコアが低くなるサンプルも見られました。
 なお、Vスコアが低いサンプルについても、pHは4.5前後で発酵は進んでいると考えられます。

※Vスコア法:サイレージ発酵で生成された酪酸、酢酸、プロピオン酸とアンモニア態窒素の含量から数値化された評価方法。サイレージの品質を100点満点で評点。

(2)現地実証農場の給与状況等

ア 新発田地域(阿賀野市)

 乳熟期かつ連日の雨天の合間をぬった収穫だったため、アキヒカリ稲体水分が70%を超え乳酸菌は添加したものの、Vスコアは低い傾向でした。
 なお、乳酸が少なく、酢酸等は多いもののpHは4.6以下と発酵は進んでおり、担当農家からは、発酵品質が高くとも刈り遅れのイネWCSと比べ、乳牛の嗜好性は良好との高評価を得ました。

イ 新潟地域(新潟市秋葉区)

 9月下旬に開封したこしいぶきは水分75%、11月中旬に開封したコシヒカリは水分66%でVスコアに差はあるものの、泌乳期で現物18kgを継続給与し、乳牛の嗜好性は良好でした。乳脂肪率年間平均4.1%±0.1で十分に良質な粗飼料が採食されていることがうかがえ、イネWCSを粗飼料の主体にした給与体系が確立しています。

ウ 三条地域(三条市)

 乳熟期前の収穫のため、水分含量の高いサイレージとなり、排汁が出るロールも多く、取扱いに難がありました。Vスコアは低い値となりましたが、良質の購入乾草と同程度の成分値でした。pH4.5前後で発酵が進み、昨年発生したカビもみられず、乳牛の月齢・産次にかかわらず、嗜好性は良く、生乳成績にも影響はみられません。

エ 魚沼地域(魚沼市)

 早期収穫のため水分が多く、Vスコアは低くなりましたが、pHは4.3で十分な発酵が進んでいます。乾物中TDNは56.7%と一般的な乳熟~糊熟期収穫のものと遜色ありませんでした。開封時の排汁が多いため、対策が必要ではありましたが、嗜好性は良好で採食量も問題なく、乳質や乳量への影響もありません。

表1 イネWCSの栄養成分・発酵品質
「表1イネWCSの栄養成分・発酵品質」の画像

表2 実証農場のイネWCSの給与概要

「表2実証農場のイネWCSの給与概要」の画像

4 早期収穫・調製したイネWCS の飼料評価(嗜好性)

(1)
 乳牛の嗜好性等を求める場合、取組み面積等作業スケジュールを考慮し、刈遅れとならないよう乳熟期を中心とした登熟ステージでの早期収穫は有効と考えられます。
 ただし、収穫作業の円滑化と発酵品質を期待するには、地耐力の確保(遅くとも出穂前の早期落水による田面の乾燥)が重要です。


(2)
 収穫時期を乳熟期中心と早期化した場合、水分が高い状態での刈取りとなるため、可能な限り乳酸菌の添加を検討してください。
 なお、発酵品質(特にVスコア)が低くとも、乳酸、酢酸の作用でpHが4.5前後に低下することが確認出来れば、早期収穫・調製したWCS用イネの飼料評価が下がるとは言い難いです。


(3)
 また、Vスコアが低くともエサ全体のなかで混ぜる他の粗飼料で品質のバランスをとることが重要となります。嗜好性や採食量への影響は、発酵品質よりも天候不順等による刈遅れ(WCS用イネの物理性、栄養成分の変化)によるところが大きいと考えられます。

 

(参考図書:「デーリィ・プロフェッショナル特集粗飼料の品質を見極めて上手く使う方法とは」
デーリィ・ジャパン社2017年2月臨時増刊号)

 

 【経営普及課 農業革新支援担当 島影 孝】

 

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