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【農業技術・経営情報】環境保全型農業:水田土壌の診断と改善

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0394685 更新日:2021年2月1日更新

1 最近の水田土壌の診断結果

 近年、水稲の品質や収量等に影響を与える要因は、気象環境の変化、土壌条件の変化等多様化・複雑化し、品質・収量の低下リスクが高まっています。
 これらのリスクに対して、品質・収量を適正に維持するためには、土壌診断により現在の土壌の状態を把握し、土づくりにより土壌環境を改善することが重要となっています。

 県内における最近の水田土壌の診断結果では、(1)土壌中の可給態ケイ酸の不足、(2)遊離酸化鉄不足ほ場の増加、(3)腐植等有機物の不足傾向が明らかとなっており、これらにより稲体活力が低下し、品質・収量に影響することが懸念されています。
 また、県内の定点で実施している定期的な土壌モニタリング調査の結果でも、可給態ケイ酸の減少が明らかになっており、遊離酸化鉄も部分的に低い地点があることから早急な対策が望まれます。逆にリン酸やカリウムが過剰傾向となっており、施肥コストや環境負荷の面から減肥栽培が必要となっています。

2 土壌診断結果に基づいた土づくり

 土づくりとは化学性、物理性、生物性の3つの側面から土壌を改善することです。現在、土づくりと言われている方法は主に(1)有機物の施用、(2)深耕、(3)土づくり資材の施用、があります。土壌診断結果に基づいて適切な土づくりを行うことは、高品質米の安定生産にとってきわめて重要なことです。近年の土壌診断結果から以下の対策が重要と考えられます。

(1)有機物の施用

 有機物の施用については、堆肥施用や稲わらやもみ殻のすき込み、緑肥などがあり、化学性、物理性、生物性をバランス良く改善する効果があります。家畜ふん堆肥は稲わらに比べ窒素分が多く、他の必須要素も豊富に含まれているため地力向上に効果がある上、多様で豊富な微生物をほ場にもたらすため、有機物の分解や病原菌の増殖抑制に効果があります。

 稲わらすき込みは秋すき込みを基準としてください。
 春すき込みを行った場合は、(1)還元状態により硫化水素が増加し根腐れを起こす、また、除草剤の薬害を受けやすくなる、(2)気温が高くなり、ほ場が乾燥する時期に稲わらが入るため、腐熟が進まない、(3)稲わら分解による窒素飢餓や異常還元が田植え時に起きやすい等の要因により初期生育が抑制される可能性があります。特に積雪地帯や遊離酸化鉄の少ないほ場では影響が大きくなるため注意してください。

(2)深耕

 深耕は主に作土層の拡大による物理的効果を狙ったものです。深耕すると水稲の根域が拡大し、土壌中の養分吸収力が増すため、生育促進の効果は比較的はっきりと現れますが、その分土壌中の養分を収奪するため、堆肥や土づくり資材の投入と併用しないとやがて地力低下することにもなります。

(3)土づくり資材の施用

ア 遊離酸化鉄

 遊離酸化鉄が不足すると根腐れを起こしやすく、根の活力が失われて登熟期の稲体の栄養状態が悪くなり品質や収量に影響します。特に砂質浅耕土壌では写真のように鉄分が作土層から下層土に流亡して遊離酸化鉄含量が非常に少なくなっています。
 遊離酸化鉄の本県の土壌成分の目標値は1.5%で、他の成分の目標値が1/1000~1/100%レベル(mg/100g 乾土レベル)なのに対し、はるかに多くの量を必要とします。仮に鉄の含有率を0.1%上げるためには、作土層が15cmの場合、鉄だけでも10アール当たり約150kg 施用しなければなりません。早めに不足分を補うようにしましょう。
 特に砂質浅耕土壌において下層土への流亡を減らして効果を高めるためには堆肥等を併用して保肥力を高めることが効果的です。極端に遊離酸化鉄が不足しているほ場は堆肥と土づくり資材を併用し、年数をかけて徐々に改善していきましょう。

「矢印の部分が作土層から流亡し下層にたまって赤く酸化した鉄の層」の写真
写真 矢印の部分が作土層から流亡し下層にたまって赤く酸化した鉄の層

イ 可給態ケイ酸

 ケイ酸は遊離酸化鉄以上に不足している状況にあります。
 ケイ酸は倒伏防止やいもち病等の病害虫対策に効果があるほか、受光態勢を良くして光合成を活発にし、稲の活力を高め、登熟を良好にして品質食味を良くします(図1,2)。
 また、秋田県立大学の金田先生によるとケイ酸を施用することにより、夏期の高温時に茎葉の温度が低下して高温対策に有効であるとしています。
 水稲はケイ酸を10アール当たり100kg 前後吸収します。一方、以前に比べ用水からのケイ酸供給量は全国的に少なくなっているため、稲わらをすき込んだとしても(稲わらの約10%はケイ酸分)ケイ酸質資材を施用しないと確実に不足しますので、毎年施用を心がけてください。

図1「止葉のケイ酸含有率と心白粒割合」の画像
図1 止葉のケイ酸含有率と心白粒割合(8月)(山形農試庄内農場1998)

 

図2「止葉のケイ酸含有率と光合成速度」の画像
図2 止葉のケイ酸含有率と光合成速度(富山県農業技術センター)

(4)もみ殻の利用

 もみ殻の18%~20%はケイ酸分であり(図3から0.8mg(ケイ酸含量)÷4 mg(籾殻重)×100=20%)、安価で有効なケイ酸質資材として活用できます。収穫後の籾すりによって得られた籾殻(単収540kg/10a で約135kg 得られる)をほ場にすべて散布すると10アール当たりでケイカルの80~100kg分のケイ酸を散布することになります。籾殻は稲わらに比べ、緩やかに分解するため急激な有機物の分解によるワキ等の発生が少なく、もみ殻施用により、数年かけてじっくり土壌中のケイ酸及び有機物を増やしていくことは安価で有効な土づくりといえます。

図3「籾殻重及びケイ酸含量(北海道中央農試)」の画像
図3 籾殻重及びケイ酸含量(北海道中央農試)

3 土壌診断結果に基づいた過剰施肥の改善

(1)リン酸

 肥料の3要素の中で、水田や畑を問わず全国的に過剰傾向となっているのがリン酸です。畑では、かつて黒ボク土壌など火山灰土壌でリン酸が不足していたほ場でも、長年のリン酸肥料や堆肥の施用によりリン酸が過剰状態になっているほ場が数多くあります。
 水田においても農業総合研究所作物研究センターの調査では、県内の平坦地のグライ土壌で特に可給態リン酸の蓄積が進んでいることが明らかとなっています。
 リン酸は100g乾土中に20mg 以上あっても水稲の増収効果はありません。水田の可給態リン酸が20mg を超えた場合は、リン酸の施用量を50%減らして様子を見てください。
 また、土づくり資材にもリン酸が含まれている場合が多いので堆肥も含め、含まれるリン酸含量を勘案して施用する量を決めるようにしてください。

(2)加里

 加里は、基肥、穂肥、土づくり資材等により毎年供給されるため土壌中の交換性カリウムもリン酸同様に過剰傾向にあります。
 水田の交換性カリウムが30mg を超えた場合は、加里の施用量を50%減らして様子を見てください。
 なお、減肥する場合は、カリウムは稲わらに多く含まれるため、水稲が吸収したカリウムを還元するために稲わらを必ず秋すき込みでほ場に還元してください。

 

【経営普及課 農業革新支援担当(環境保全型農業) 長谷川 雅義】

 

 

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