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【農業技術・経営情報】花き:オリエンタル系ユリ切り花栽培におけるヒートポンプ暖房機を利用した夜間冷房技術

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0354277 更新日:2021年2月1日更新

平成25・26 年度新技術導入広域推進事業

1 夜間冷房技術とは

 燃油高騰対策として導入の進んでいるヒートポンプ暖房機の冷房機能を利用して、日射の影響を受けない夜間にユリ等の栽培施設を冷房する技術である。

2 夜間冷房時の施設内温度

 夜間冷房を開始すると、施設内気温は速やかに低下を始めて設定温度付近まで低下後、冷房運転の終了とともに急速に上昇する(図1)。施設規模やヒートポンプ暖房機の能力によるが、夜間の外気温が25℃程度であっても20℃程度まで低下させることが可能である。
 また、施設内気温の低下とともに施設内地温も低下し、日中でも夜間冷房施設の地温は低く維持される。

図1夜間冷房施設内気温・地温の推移(2012、村上市)
図1 夜間冷房施設内気温・地温の推移(2012、村上市)

3 夜間冷房による切り花品質の向上効果および特徴

 高温期定植作型において、定植後に夜間冷房することにより初期の発根が良くなり(写真1)、切り花長が長くなり、止め葉が大きくなるとともに、奇形花の発生が減少する。また、施設内全体の生育の揃いが良くなり、採花率の向上が期待できる。
 ただし、収穫(採花)時期が慣行より遅くなるため、栽培計画についてよく考える必要がある(写真2)。

写真1:定植3週間後の発根状況(ビビアナ、2013、新潟市)の写真
写真1 定植3週間後の発根状況(ビビアナ、2013、新潟市)
(左:夜間冷房区、右:対照区)

写真2:生育状況(ビビアナ、2013、新潟市)の写真
写真2 生育状況(ビビアナ、2013、新潟市)
(左:夜間冷房区、右:対照区)

4 夜間冷房技術導入のポイント

(1)品種

 高温期の栽培において切り花長の確保が難しい品種や、奇形花の発生が多い品種等、一般に高温で切り花品質の低下しやすい品種に効果的である。夜間冷房により出荷等階級が向上する品種には経済的な面から見ても有効と言える。高温でも品質低下しにくい品種(草丈の伸びやすい品種や奇形花の発生しにくい品種)でも効果はみられるが、その程度は低く、技術導入にあたっては作型やその年の気温等を踏まえて検討する必要がある。

(2)作型(定植時期)

 基本的には定植後に高温が続く作型で有効であり、現地実証結果からは7月中旬~8月中旬定植作型で、夜間冷房による効果が確認されている。
 ただし、気温の推移や品種によってはもう少し遅い定植作型まで効果的と考えられる。

図2:平年の気温と夜間冷房技術導入期間(新潟)の画像
図2 平年の気温と夜間冷房技術導入期間(新潟)

(3)夜間冷房温度、期間

  • 夜間冷房温度は、施設や導入機械の能力及び現地実証試験の結果から17~20℃が適当と考えられる。温度は低いほど効果的と思われるが、極端な低温は最高気温との温度差による障害発生も懸念されるので注意が必要である。
  • 夜間冷房は最高気温が30 ℃を越える7月下旬~8月下旬までの期間で有効と考えられる。ただし、発根促進及び奇形花の発生軽減効果や経済性を考慮すると、定植から3~4週間程度が目安と考えられる。

写真3定植後の夜間低温(20 ℃)期間と生育(シベリア、左から0、1w、2w、3w、2012)
写真3 定植後の夜間低温(20 ℃)期間と生育(シベリア、左から0、1w、2w、3w、2012)

(4)夜間冷房技術導入の留意点

  • 日中の気温の高い時期であるため、夕方に換気を十分に行なって施設内の気温を予め低下させておくことが重要。また、夕方のかん水と組み合わせると施設内の気温、地温を急速に低下させることも可能である。
  • ハウス出入り口、及びハウスサイドを閉め切って内張断熱資材(内張カーテン)を展張することにより、施設の断熱性を向上させるとともに冷房空間を小さくして使用電力を抑え、効率的な夜間冷房が可能となる。
  • 夜間冷房により切り花長が伸長しやすくなるので、芽伸ばし処理は基本通りの10cm程度として、出芽長が極端に長くならないようにするとともに、過度な遮光は避けて遮光の切り替えを早めに行い、徒長しないように注意することが大切である。
  • 夜間冷房時には、施設内湿度低下と速やかな発根により土壌水分が不足しやすくなるので、夜間冷房開始前に十分なかん水を行なって土壌水分を適性に保つ必要がある。
  • 定植から収穫(採花)までの生育期間が長くなるため、収穫(採花)時期は慣行より遅くなる。品種や定植時期、気温の推移によっては、慣行では無加温で栽培できた場合であっても加温管理が必要となる場合もありえるので、栽培計画について十分に検討する必要がある。
  • 切り花品質向上=所得向上とは限らない。技術導入には品種特性や作型を含めた検討が必要。また、あくまで暖房コスト削減として導入したヒートポンプ暖房機の有効利用技術であることを念頭に置いて技術導入を考える必要がある。

5 現地実証事例(平成25年度~平成26年度現地実証成績概要)

(1)新発田農業普及指導センター

ア 平成25年度の現地実証結果概要

  • 8月11~12 日定植(ソルボンヌ等)、3週間の夜間冷房を行なった。
  • 夜間冷房により施設内温度は設定温度付近まで低下した。地温は対照区より日中も低く保たれた。
  • 切り花長が長く、奇形花の発生が少なかった(図3、図4)。
  • 対照区の露地作型と比べ、草姿バランスが良好であった。
  • 夜間冷房の電力コスト以上に、切り花長の確保により販売単価が向上した。

図3草丈と図4奇形花数のグラフ画像

イ 平成26年度の現地実証結果概要

  • 7月14~15日定植(シベリア、ストライカー)、9月3日まで夜間冷房を行なった。
  • 慣行では被覆資材除去での栽培であったが、被覆資材展張のままで高品質切り花栽培が可能であった(表1)。
  • 切り花品質の向上、上位等級の増加により販売額が向上した。
  • 夜間冷房経費は51日間の稼働で切り花1本あたり26円(基本料金込み)程度であったが、切り花出荷規格の向上により40円程度単価が向上し、経費以上販売金額が上昇し収益改善に効果的であった。

表1 切り花品質調査
表1切り花品質調査の画像

(2)新潟農業普及指導センター

ア 平成25年度の現地実証結果概要

  • 8月7日定植(ビビアナ、ノバセンブラ)、3週間夜間冷房を行なった。
  • 夜間冷房により施設内温度は設定温度付近まで低下した(図5)。地温は対照区より日中も低く推移した(図6)。
  • 収穫時期は1週間遅くなり、切り花長が長く、奇形花が減少した(表2)。
  • 夜間冷房経費は切り花1本あたり9円程度(基本料金込み)であるが、品質の向上により切り花販売単価は50~107円程度高くなり、経営効果は高かった。

図5ハウス内温度の時間別推移(新潟市南区)の画像
図5 ハウス内温度の時間別推移(新潟市南区)

図6ハウス内地温の時間別推移(新潟市南区)の画像
図6 ハウス内地温の時間別推移(新潟市南区)

表2切り花品質(新潟市南区)の画像

イ 平成26年度の現地実証結果概要

  • 7月31日定植(シベリア、シーラ)、25日間夜間冷房を行なった。
  • 芽伸ばし期間を1週間、2週間として比較を行なった。
  • 芽伸ばし期間1週間では生育の揃いが悪く、切り花ボリュームが低下した。
  • 夜間冷房を前提とした芽伸ばし処理は、2週間程度必要であると判断された。
  • 夜間冷房経費は切り花1本あたり9円程度(基本料金含む)であった(表3)。

表3夜間冷房電気料(2 か年平均)の画像

(3)新津農業普及指導センター

ア 平成25年度の現地実証結果概要

  • 8月20日定植(カサブランカ)、19日間夜間冷房を行なった。
  • 定植後に外気温が低下したため、夜間冷房区と慣行区の夜温の差は少なかった。
  • 夜間冷房終了時(定植3週間後)の草丈は夜間冷房区がやや長かった。
  • 切り花品質、収穫時期に差は認められなかった。

イ 平成26年度の現地実証結果概要

  • 8月16日定植(カサブランカ、シベリア)、3週間夜間冷房を行なった。
  • 定植直後は夜温で5℃程度の差が見られたが、その後徐々に差は少なくなった。
  • 夜間冷房終了時(定植3週間後)にはカサブランカの実証区で草丈が長かった。
  • 最終的に切り花品質に差は見られなかった。
  • 夜間冷房コストは、切り花1本あたり3.7円(使用電力料金のみ)、6.8円(3週間の基本料金込み)であった(表4)。

表4夜間冷房経費の画像

6 今後の課題

(1)生育後半の夜間冷房効果の検討
(2)品種に応じた夜間冷房温度、期間の検討

 

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