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にいがたファームステイ体験記

ページ番号:0600644 更新日:2023年8月3日更新

 民泊の様子

心に残る特別な体験で、第2の故郷「にいがた」へ

 晴れわたる青空に新緑が映える季節、聖徳中学校の1年生(4クラス136名)が、三泊四日の日程で新潟県へ春のスプリングキャンプに訪れた。

阿賀町民泊
 豊かな自然に恵まれた新潟県は、これまでも都会の子どもたちの体験学習の場としてファームステイの受入れを行なってきた。

そこに新しい風を吹かせる初の試みが、地域分散型の体験「にいがたファームステイ」。訪れた生徒たちは、阿賀町・妙高市・上越市の県内の3カ所に分かれて滞在する。今回は阿賀町の受入団体がメインとなり、妙高、上越の団体と密接に情報共有しながら受入れを進めた。

 今回同行させていただいた聖徳学園中学校(東京都)は、20年以上前から阿賀町に民泊体験や田植え体験に来ている常連。新型コロナウイルス感染症でスプリングキャンプも3年間中止になっていたそうで、今年は久しぶりの再開だ。

 青空にはためく歓迎の横断幕のもと行われた対面式。

受入れ入村式
 

「コロナで3年間中止になり寂しかったですが、復活して嬉しいです。楽しい思い出をつくりましょう!」と、受入先代表の増川さんの声は明るい。

「都会では学べないことを学んでいきたいです、よろしくお願いします」生徒代表も大きな声で答えていた。

 対面式が終わるといよいよ民泊体験だ。3〜4名のグループに分かれ、それぞれの体験先へ移動を開始する。ついこの間まで小学生だった中学1年生。楽しそうな笑顔の子が多い中、やや緊張した面持ちの子もちらほら見られた。手を振る先生方に見送られ、彼らにとって生涯の思い出となる1日がスタートした。

 「スプリングキャンプ」を新潟県で実施することに決めた理由について、校長先生に伺った。

校長先生手を振る校長先生

「新潟での民泊体験を初めて学校行事に取り入れたのは22年前。自然と触れ合う機会の少ない都会の子どもたちに、実際に土や木々に触れる体験をして自然や環境、生き物への関心を深めてほしかったからです。
また、日本の歴史や文化は米づくりを基盤として発展してきました。グローバルな教育が進み生徒たちが世界に進出していく機会が増えている中、世界の前にまずは自分が暮らしているこの日本の事をしっかり学んで欲しいと思っています。そして、いつも食べているご飯がどのように作られているのか、それを作るのがどれだけ大変なことなのか、実際に体験して気づいてほしいのです」

 こういった体験ができる受入先を探していたところ、新潟県阿賀町のグリーン・ツーリズムの活動や試みについて知ったのだそうだ。

民泊体験が子供たちに与える効果についても伺った。

「都会では味わえない貴重な体験は必ず記憶に残ります。受入先の民家でさせていただく様々なお手伝いは、ほとんどの生徒にとって初めての経験ばかりで、何もかもが新鮮に感じることでしょう」

石拾い山遊び

 親元を離れた初めてだらけの環境では、自分たちだけで問題解決しなければならない場面も多い。そんな中で、時には我慢をしながら協力して何かを達成することは子どもたちの自信にもつながる。この年頃の体験というものは、その後の人間性の形成に大きな役割を果たす。先生方には、たった1日離れただけでも子どもたちの成長が感じられるそうだ。

 親切にしてもらった体験は、子ども同士はもちろん、家族、地域の人とのコミュニケーション能力を育む。実際、新型コロナウイルス感染症の影響で他者とリアルに関わる機会が少なかった子の中には、人との距離感がわからずに人間関係に悩む例もあるそうだ。

「大変親切にしていただいており、第2のふるさとのように感じている」と校長先生。民泊体験後も交流が続くケースもあり、受入農家の方々が学校の文化祭に訪れるなど、家族ぐるみの交流も生まれている。地域を越えたつながりと人の暖かさが感じられた。

民泊手伝い

未知の出会いと体験!

 体験先の様子を見にいくと、都会では見られない景色に子どもたちの目はキラキラと輝いていた。民泊では、受入先ごとに体験する内容が違うのも特徴の一つ。自分たちの体験は、自分たちだけの特別なのだ。

 お世話になる受入先で、家族の一員として普段の農作業のお手伝いをする。花の苗植え、薪割り、山菜採り、椎茸のコマうち、サツマイモ苗植えなどの様々な体験は、どれも都会ではなかなかできない。

苗植えまき割り山菜採り駒うち

 地元の人たちとの交流も、貴重な体験の一つだ。特に都会では核家族化が進み、家族や学校以外で大人やお年寄りと接する機会は減少している。また、過疎化の進む受入れ集落の方々にとっても子どもとの交流は貴重だ。「子どもたちに逆に元気をもらっている。また遊びに来てくれたら嬉しい」と楽しそうに話してくれた。

見て、感じて、自然の中でできること

​ ある受入先では昼食の準備中。自分で収穫したトマトのおいしさにつまみ食いをする姿や、煙にむせながら一生懸命釜でごはんを炊く姿。どれも都会ではできない体験だ。おこげがおいしいと大騒ぎする生徒達に、受入先の家族は笑顔を浮かべていた。

カレーづくりお手伝い
 山菜採り体験中の民家では、はじめは「さんさいってなんですか?」と話していた子も。山の中に食べられる自然がたくさんあるなど、はじめて知ったことだろう。さっそく教わった見分け方を自慢げに披露しながら収穫した山菜を見せてくれた。
 また、別の班ではやまびこを聞いたことがないというので、皆で挑戦してみることに。 
 「ヤッホー!!」「ヤッホー!」
 少し遅れて返ってきたやまびこが山々に響く。大喜びする子どもたち。綺麗な川と山に囲まれ、いたる所にやまびこが返る好条件の場所があるからこそだ。

釣り風呂たき

 畑仕事のお手伝いをしている子どものバケツを覗いてみると、中には小さなアマガエルが。「あっちではいないもん、すごく可愛い!連れて帰っていいですか?」といたくお気に入りの様子だった。子どもたちにとっては、いろいろな生物の痕跡との遭遇も珍しかったことだろう。

第2のふるさとを目指して

 あっという間に一夜明け、お世話になった皆さんとのお別れ式。たった一泊二日でも、お別れはやはり寂しい。
「今後もずっと続くようにがんばる。大人になってまた阿賀町にお越しください。」
「東京では学べないことが体験できました。今後の学校生活に活かして成長していきたい。」
受入農家と生徒の代表者が挨拶を交わした後、

「ありがとうございました!」 と全員の声が重なった。

ありがとうございました。お別れ

一日ぶりに仲間と顔を合わせた子どもたちは、さっそく自分の体験を語り合う。

「ごはんが見たことない草ばっかりだった!」

「川遊びしてたら急に深くなってびっくり!」

「おれのところ当たりだったー」

楽しかった思い出や、大変だった思い出。家に帰っても、また自分の素晴らしい経験を家族に一生懸命話したことだろう。

再開再開

食べ物の大切さを感じる田植え体験

 民泊体験の次は田植え体験だ。

 晴天の棚田に子どもたちの明るい声が響く。最初は田んぼに入ることに戸惑う子どもたちだったが泥に足を入れては「なんかいるー! きもちわるーい」「変な石があって痛い!」と大騒ぎ。

 一列に並び、初めての感触に歓声(悲鳴?)を上げ、顔や服を泥まみれにしながら一歩一歩丁寧に苗を植え進める。泥の中でバランスを取りながら歩くのは、思っている以上に大変なこと。体験を通じて米作りの大変さの一端を実感した。

田植え田植え

 非日常の中で体験した風景は、成長し大人になっても心に残る。いつか無性に自然の中でリフレッシュしたくなったときに、特別な思い出を共有したい誰かと新潟県に遊びに来てくれるようなことがあれば、素敵なことであり誇らしい。

 後日、受入農家には民泊した子どもたちからお礼の手紙が届けられた。子どもたちとの触れ合いは、受入れる方々にとっても忘れられない心温まる思い出となり、また新たな交流のきっかけとなることだろう。