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原発立地議会中越沖地震柏崎刈羽原発・災害対策緊急大会での知事講演について

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0043481 更新日:2007年12月18日更新

講演「被災した原発立地地域からの情報の発信」

 平成19年11月21日(水曜日)に開催された、原発立地議会中越沖地震柏崎刈羽原発・災害対策緊急大会での泉田県知事の講演記録を公開します

講演記録

日時 平成19年11月21日(水曜日)16時00分~17時10分
場所 柏崎市産業文化会館1階文化ホール

 皆さんこんにちは。講演に先立ちまして、去る7月16日に発生致しました中越沖地震に全国から本当に心温まるご支援頂きましたことをお礼申し上げます。ありがとうございました。
新潟県はこの3年くらいの間に2度大きな地震にあってしまいました。そしてこの間本当に全国から暖かいご支援を頂きました。お礼の意味を込めて、体験した立場でのメッセージを今日お話しさせて頂きたいと思います。

 7月16日を振り返ってみますと、私は知事公舎におりました。そして激しい揺れを感じました。皆さんも頭に入れておいてほしいのですが、震度5までは、被害がでてもだいたい軽微です。例えば自衛隊の派遣要請を考えると、そこまで至らないケースが多いのではないかと思います。これが震度6を超えると、必ず被害が出ています。それから怪我をされる方が必ず出ると思っています。震度6強がでますと、何の躊躇もなく自衛隊に出動要請したとしても、「早く要請して良かった」ということになると思っております。震度6弱だと微妙なところですね。被害はそんなに大きくないかもしれないけれども、局部的にはやられている可能性があると思います。6強とか7とかとなると、必ず何か月か災害対応しなければならない状況となります。
 今回私が最初に電話したのが柏崎市長で、15分以内に電話をしております。10時13分の地震だったのですが、10時27分には繋がっています。それで市長さんからこういう話がありました。「市役所に来る途中、何軒か住宅が倒れていました。話によると、閉じ込められている人がいるようだ。」という情報です。それで「何の躊躇もなく自衛隊に要請した」ということでした。危機管理体制というのは、震度を頭において、命にかかわりのある事態が生じた場合には、直ちに対応するのが基本であると思っています。
 私は災害時優先電話を常時携帯していますが、3年前の地震の時はPHSと通常の携帯の2種類を持っていました。PHSは優先電話と同じでいつでも発信できますし、受信はもう1台の携帯の方にできたので、あまり不便は感じませんでした。今、災害時優先携帯電話を使っていますが、これだけではすごく不便だと改めて感じています。危機管理監には地震直後に連絡出来たけれども、その後連絡がとれないんですよ。何で連絡が取れなかったか後で聞いてみると、お互いに両方から連絡を入れている。危機管理の担当者は、県もそうですし、関係機関の方々も、一人1台しか携帯電話を持っていない。皆さんがそれぞれ情報を取りに走るものですから、常時話し中ですぐに連絡がとれないという事態になります。役所にいて、人員が何人もいてラインが空いていれば、連絡を取りながら同時に受ける事ができるんですが、担当者一人、もしくは本人しかいない中で、優先携帯電話1台しかない場合は連絡を取り合うのに極めて障害になる。
 原子力発電所も同様でした。地元の発電所と連絡が取れませんでした。優先携帯電話を使っても電話が繋がらないんです。結局情報は東京経由で取りました。東京の本社に電話して、組織からとれた情報をフィードバックするという形で連絡を取るのが一番早いという状況になりました。ホットラインは極めて重要ですけれども、今回皆さんご承知のように、東京電力の施設が地震でゆがんで扉が開かなかったということで、ホットラインにたどりつかない事態だった。
 3年前の大震災の時にも似たような事がありました。お手元の地図を見て頂きたいのですが、このブルーの円が3年前の震源地です。最大震度7。土曜日の夕方5時56分に発生した地震でした。そして黄色い円が災害救助法の適用されたエリアです。逆断層型といわれる地震で、プレートが押されてプレートとプレートの歪が圧縮する力を与えている、それが耐えかねて断層でずれるという逆断層型の地震でした。
 今年の7月におきた中越沖地震は、距離も前回から数10kmしか離れていない。これも結局地表が圧縮されて、圧縮に耐えかねて滑るという逆断層型の地震です。マグニチュードは両方とも、6.8です。すなわち両方ともほぼ同じような場所で、同じような原因で、そして同じ規模の地震が3年で2度起きたということになっています。
 しかしながら3年前と今回とで被害の内容は全く違います。3年前の地震は、山が動いて、道路が寸断され、通信回線も途絶する。そして崩れた山によって村が水没するという状況になりました。皆さんご記憶にあると思いますが、地震発生直後道路に「SOS」と書いて、「ミルクがない、おむつが欲しい」というのを、自衛隊のヘリにメッセージを書いて発信しなければならない状況になりました。一番問題になったのが、高齢者がどこで何をされているのか、集落で孤立している人がいないのか。一体どれくらいの人がどういう形で孤立されているかを把握するのが極めて難しかった。通信を確保するのが非常に難しかった。それから被害の大きかったのが道路、いわゆる公共インフラの被害が極めて大きかったということです。
 それが3年後同じタイプの地震が起きたにもかかわらず、今回の被害状況は全く違っていました。地元の自治体との通信は、組織で動けばかなり出来ていました。孤立の問題はありませんでした。それから道路やトンネルなどの公共施設については、最終的にはもう少し経たないと確定できませんが、3年前の地震の5分の1と10分の1の中間くらい、まあ7分の1くらいかなと見ています。また一方で、地方の中堅都市を直撃する地震、それも海岸に近いことから液状化が発生して、ブロックごと住宅が壊れてしまう。遠くから見るとほとんど壊れていないようだが、全壊している住宅があるという、個人財産直撃型、生活直撃型の地震だと思っています。そこに原子力発電所が絡んでしまったということです。
 通信に話を戻しますと、3年前の地震は、道路は寸断される、孤立は生じるということで、「情報がないのは悪い知らせ」という状況でした。首長さんに順番に電話をかけて、連絡がとれなかったのが旧山古志村と川口町。川口町は庁舎の中に入れなかったため外にテントをたて携帯電話で通信をしていたということでしたが、今回は組織対組織ということでは、かなり円滑に連絡がとれました。ただ必要な情報が住民に届いたかどうかに関しては、課題が多かったと思います。

 原子力発電所関係に話を持っていきたいと思います。東京経由で得た第一報が「原子炉はスクラム(緊急停止)しました。放射能漏れは確認されていません。」でした。その時どういう状況だったかというと、原子力発電所内の東電のテレメーターは、(伝送が)止まっていたんです。県が運営している敷地外のテレメーターからは情報がずっと入っていました。放射線漏れは、県のテレメーターでは感知していないということまではわかっていました。その時点で情報は報道機関にも出しました。しかし、この情報は報道に取り上げてもらえなかったという思いがあります。「県のテレメーターに異常はありません」ということは、各市町村の災害本部にもお伝えしました。しかしそれを住民の皆様に伝えるかどうかは、それぞれの市町村の対応に任されることでした。「放射能漏れがある」ということでしたらすぐに住民に伝えるでしょうけれど、「放射能は出ていません」という情報をどう扱うかがはっきりしていなかった。今後考えていかなければならないと思います。ちなみに皆さんの自治体にも国民保護計画の運用の話が最近あったと思います。国民保護計画では報道機関と協定を結んで、必要がある時には放送を要請するという項目が入っています。災害時の危険情報についても報道機関との間で放送要請の協定があります。ところが、安全情報の放送要請には協定がないんです。これをどう考えたらいいのか。報道の自由があり、報道機関の編集権がある。表現の自由との関係で安全情報をどう伝えていくのか。一つヒントが津波情報だと思います。地震があると気象庁が津波の心配があるのかないのか、ある場合はどうすれば良いかということを、間に何も入れないで、一気に全国に伝わるように構築されています。
 放射線については、放射線漏れの危険が生じた場合に内閣総理大臣をトップとする機関が判断して、避難の必要性について各自治体に伝えることになっています。2年前に私も政府主催の避難訓練に参加しました。原子炉に異常事態がおきるかもしれないという事象が発生して、仕組みを立ち上げて集まって政府に状況を報告して、そして判断をするのに2時間半くらいかかったということです。これが原災法の現在の運用になっています。
 しかしながら今回何が起きたかというと、10時45分頃だったと思いますが、原子力発電所から炎が上がっている映像を、国民の皆様と一緒にテレビで見るという事態になりました。テレメーターについては、先ほど申し上げたとおり発電所の敷地内からの情報は止まっていましたし、発電所の中で何が起きているのかわからない。やはり最悪のシナリオを考えて対応するということしかないだろうと思います。柏崎刈羽の住民は10万人います。その中で災害時要援護者を避難させるのは、1時間や2時間ではできません。かなり前から準備して、そして避難計画をたてないといけない。ちなみにロシアのチェルノブイリで事故があって避難が完了するまでに5日間くらいかかっています。そういう事態になるととても住民の命を守れないことになります。
 スリーマイルでも事故がありました。これは思想の違いですが、スリーマイルでは人間が作ったものは必ずエラーがあるという考えから、原子力発電所で事故が起きたらどうするかというマニュアルが出来ているんです。日本の場合はそこが全く違っていて原子力発電所で事故は起きないという仮定でいる。日本の原子力発電所はトラブルが発生しない、100%絶対安全という神話できたんじゃないかという疑いを持ちます。そうするとどうなるか。トラブルが起きたのにそれではまずいから隠してしまうという方向に力が行きはしないか。ちなみに原子力発電所というのは、人類が取り扱う装置の中で最も複雑なものの一つだと思います。これは単に機械だけではなく、組織の中で多様な人が動かすシステムの一つとして最も複雑なものです。航空機や宇宙船もその一つだと思います。物を製造することに関して言えば日本は一番優れていると思います。それは日々進歩する技術に適応する、あるいは危機管理という観点から競争に勝ち抜くことが出来るからだと思います。原子力発電所の場合、30年前の技術が完璧でその後全然進歩しないなんていうことはあり得ないのです。
 安全神話がなぜ生じたのかということについて振り返ってみたいと思います。「人類が作ったものに100%はない」ということを許容できるかだと思います。「トラブルはあり得るんだ。でもトラブルが起きても命と財産はしっかり守れるんだ。そのために誰が何をどうするんだ。」というアメリカ型の体系を作っておくべきではないか。
 今回の地震の揺れを見ても当時の知見でどうだったかというのは、もう一度検証してみないとわからないが「誰の目で見ても明らかにおかしい」という状況だったのかどうか。その後技術は進歩するわけです。断層をどのように評価していくのか。そしてどういう揺れが起こり得るのか。設計はこれでいいのか。人類の知見というのは日々進歩をしているということだと思っています。そういった中でこの知見を常に最新のものに合わせて、よりリスクを避けるということをしていくためには前提があります。100%安全な物など、この世の中に存在しないということを認めることだと思います。そのうえで今日より明日、明日より明後日をいかに安全にしていくかという方向に転換できるかどうか、これが住民の信用、信頼に繋がっていくと思います。「原子力発電所は安全ですか。」と首長が私に聞いてくるんですが、それは評価できないですよ。最先端の学者先生でも見解が分かれるものを首長に聞いて答えが出るわけがない。今どのような状況になっているかということが住民の皆さんにわかるような形で、それも複数ある意見が目に見える形で伝わっていくということがないと不安は拭いきれないと思います。

 災害の話に戻りますと、炎が上がっているのは変圧器ですが、変圧器には2種類あります。柏崎から首都圏に電気を送るための変圧器と、発電所内に電気を供給するための変圧器です。今回火災を起こしたのは発電所内に電気を供給するための変圧器の方です。その変圧器が火を噴いていたら、何が起きるのか、所内の冷却水を回すポンプは正常に動いているのだろうか。もしかすると発電所内に電気は送られていなのではという懸念が生じる。その時点では情報がない。そうするとやはり最悪の事態を考えて対応せざるを得ないというのが、災害対策本部長の責務です。情報がないので、国に情報提供を依頼しました。一体何が起きているのか避難の必要性ありやなしや、という照会をしました。「避難の必要はない」という返事をもらいましたので、原子力発電所の関係で大規模の避難準備をするという事態は避けられました。

 災害時要援護者にとっては、個人情報保護法がネックなんです。守らなければいけない個人情報は別として、住所までが個人情報だとしたら何のための表札かわからない。自主防災組織を持って災害時要援護者の情報を共有していれば、過去の例では安否確認が2時間で終わったケースもあります。ところが災害時要援護者の情報を行政しか持っていないと、安否確認に2日も3日もかかるケースがあります。災害時要援護者はいろいろな人のサポートが要りますし、警察、消防、自衛隊も行って救出しなければならない。その手配には相当なエネルギーが必要なので、個人情報の保護という名目で情報を出さないということは行政の怠慢だと私は思っております。結局何のための個人情報保護かというと、命があって初めて保護される価値があると思います。別に病状を書けとか病歴を言えということではないんです。災害時に助けなければいけない人が誰と誰で、何処にいるのか、なんでこんな情報を共有できないのか理解できないということです。実は内閣のガイドラインを変えてもらいました。3年前の地震の後、新潟県は2回豪雪に遭いまして、自衛隊にも出動していただきました。ところが何処を救助したらいいのか、雪下ろしをしたらいいのか、名簿が出てこないんです。そうこうしているうちに上越市でグループホームの屋根が雪の重みに耐えかねて3名が犠牲になられるということが起きました。雪下ろしをすべきところがどこかという情報を出せないというのが今の大方の自治体の現状ではないか。議員先生方も、戻られて行政に聞いてもらいたいのですが、自主防災組織もしくは町内会で要援護者の誰と誰を誰が援護するのか決まっているところを確認してみてください。ほとんどありませんから。そういう状態で「いざ」というとき本当に円滑に避難できるのかが問題です。その後、本人の言質がなくても個人情報を提供しても良いということにガイドラインは変わっているんですが、それでも進んでないのが現状です。命を守ることは自治体の最も重要な業務のひとつですので、災害時要援護者の情報を共有する運動を、特に原発立地地域の皆さんから始めていただけるとありがたいと思っております。

 原子力発電所の問題にもう一回戻りますと、変圧器が被害を受けている、つまり冷却水を動かすポンプに電源が入ってないかもしれないという情報、原発から火を噴いていて人が誰もいないという情報が世界に配信されてしまいました。その結果県庁には世界中からすごいリアクションがきました。ロシアからは「日本は日本海を放射能で汚染してけしからん。」という話がきましたし、世界各国から国際交流ということで県庁に人が来ていますが親元から電話がきます。「日本は放射能の煙につつまれているそうじゃないか。そんな危ない所にいないですぐ帰って来い。」という話があったり、西海岸のカリフォルニアですけれども新聞に「今後新潟県地方を中心とする日本には5年から10年間は旅行しないように。」という記事が載ったりとか、某国では日本の外務省危険情報に相当するものが外務省の名前で危険地域に指定して「日本への渡航を延期するように」勧告が出されるという状況もあります。その結果秋田県に来る予定だったイタリアのサッカーセリエAのチームが来日をキャンセルするという事態に立ち至ってしまった。本当に世界規模で風評被害が発生することになりました。
 何でそうなったかを考えてみると、国が「放射能漏れはありません。」という第一報を発表したのは塩崎官房長官です。その後に「実は海にちょっと漏れていました。空気中にもちょっと出ていました。」という話が出て話が大きくなったと思っています。官房長官というのは皆さんご承知のように政治家です。あらゆる国家の課題に対応しなければいけない。放射能の専門家でも原発の専門家でもありません。そういうところで情報を公開しなければならないというのが今の日本の姿です。なんでそうなるかというと責任を持って自分の責任で発表できる機関が存在しないことが大きな原因ではないかと思います。国民に顔を向けてメッセージを出すという仕組みを持たなくていいのかということがこの国の問題ということになります。現場をわかる者が、それも原子力村だけで通じる言葉でなくて一般の住民の皆さんにわかるように話すことが必要です。今何が起きているのかということをタイムリーに情報提供しないから誤解を招いてしまうという側面があると思います。
 柏崎にオフサイトセンターという施設があります。原子力発電所で何かトラブルが生じたときに知事とか市長とか国から経済産業副大臣が来て現地で指揮をする、現地指揮所みたいな施設ですが、今回まったく使われませんでした。今回使わないでいったいいつ使うんだということですが、何で使われないかというと話は簡単で、複合災害だからです。知事が原子力発電所だけにかかりきりになれるわけがない。それより命を守る、食事を手配する、住民の安全を確保するといった災害時の知事の本来の任務があるので原子力発電所に知事を拘束して原発だけにあたるという法体系に所詮無理があると思っています。地震が起きた中で特に原子力発電所が被災して災害時にどう対応するのかという体系が構築されていない。だから原災法については見直しが必要であると私は思っています。
 今回国から情報提供がなかったのは、原災法が適用されなかったからです。原災法が適用されるためには「放射能漏れがある」ことが前提となっています。JCOの事故のように放射能が漏れた時には対応するんです。でも「放射能が漏れるかもしれない、何が起きているかわからない」という時に国として地域として誰が何をするかという決まりが原災法には一切規定されていない。万が一原子力発電所に通じる電気が遮断されていて時間とともに熱が蓄積して熱暴走が起きてしまって、その後から放射能漏れがおきたらいったいどうなるかというケースがまったく想定されていない。これは官僚答弁をすると「放射能漏れがないから原災法は適用されませんでした。以上。」ということになるわけです。それで本当に住民の命が守れるのか。今の法体系を見直さないといけないのではないか。複合災害が起きたときにしっかり対応できる体制に切り替える必要があると思っています。現行法の運用で対応できるかとなると、そもそも法体系にない話ですから、これは住民の安全が保たれてこその原子力発電だという立場に立ち、しっかりとした制度を作っていく必要があるのではないかと思います。

 電力供給ありきで住民の命を軽視するようなニュアンスが伝わってくるケースがあります。実際東京で生活されている方、首都圏、名古屋圏、関西圏等の大都市におられる方と原発立地地域にお住まいの皆さんに意識ギャップが大きいという気がしてなりません。平成14年に東京電力のトラブル隠しがありましたが、私はその時東京におりました。確かに電力不足があるだろう。「でんこちゃん」というキャラクターが出てきて「皆さん節電にご協力ください。」というCMが流れるわけです。役所のエレベーターのうち半分が止まっていたり、夜8時過ぎると冷房が切れて暑い中で仕事するということが経済産業省の中だからかもしれませんがありました。ありましたけども一般の住民の皆さんが本気で電力危機を感じていたかというとちょっと首をかしげる。エアコンの温度をみんな上げましたかというと、東京の家庭だと「夏の暑い最中エアコンつけないと寝れないんです」と言ってエアコン使っていたはずですし、「万一電力需要のピークが来ても大きな工場の電力供給を止めるから関係ないや」というぐらいの意識だっただろうと、振り返ってみるとそう思います。しかしながら首都圏の電力が不足するといったい何が起こるんだという議論は平成14年当時新潟で行われていました。こんな国家レベルの話を電源立地地域がやっていたというのは東京にいるとまったくわからないんです。我々はどういうリスクを取ってどういう役割を果たすのか、自らの位置づけを含めてかなりシビアな議論が電源立地地域でなされているということが大都市には伝わっていないという現実があります。そうすると安全に対する感度も相当差が生じているという認識があります。先日も首都圏で「柏崎刈羽原発というのは千葉県にあると思っていました。」という人に会いました。柏と柏崎の区別がつかない。基本的にはそういう都市住民と原子力発電所の近郊に住んでいる意識の差を埋める努力をしなければいけない。

 先ほどの法律の話でいえば複合災害の他にも何があるかわからないわけです。そういった中で住民の命と安全と財産をしっかり守れるような体系がどうあるべきかということを、今回を教訓に是非見直していただきたいと知事会でも提案しています。起きてみないとわからないことで「化学消防車が配備されていなかった」などというのは信じがたいことです。官の感覚で言うと共管か専管かというのが大事なんです。今回の原災法は経済産業省の専管です。一方どういうふうに消防を行うかというのは消防庁がプロです。そうすると消防庁と共管にしておくとより安全性が高まるんです。コンビナート火災については消防庁と経済産業省の共管です。なぜ原災法が専管なのか。地震が起きてどうして人が誰もいないところで火災が続いたかと言えば消防施設に不備があったからです。地震で配管が壊れてしまえば水圧が下がるという極めて当たり前の構造で、そこに思いが至らないのは消防という観点でチェックする専門家が経済産業省にいないからです。消防庁にいるわけです。だから役所の縦割りの壁を越えて共管とすることは大変重要ではないか。自治体消防に頼るということは、消防はあちこちで対応しなければならず、それで原子力発電所に人を振り向けられるのか。原子力発電所に向かう途中の道が遮断されているケースもあります。ちなみに空港は必ず自衛消防隊がいます。石油化学コンビナートにも必ず自衛消防隊がいて24時間待機している。ところがなぜか原子力発電所は兼務になっている。指定されていた消防隊員は自宅にいましたとか、離れていましたということになっている。これは明らかに消防体制に不備があるということだと思いますので、これから強化されるのでしょうけれども、こういったことが地震でわかるのではなくて常にチェックできる体制、餅は餅屋、専門家は専門家としてチェックできる仕組みを作っておかなければいけないと今回強く思います。

 これは皆さんと思いを共有できると思うのですが、住民の皆さんが自治体を信頼できるかということだと思います。今の状況だと国の調査は信頼できないということになっています。IAEAに来てくれと言わざるを得なかったのは逆に言うと国の信用がないということです。電力会社も信用がない、これは仕方がない面もあるのですが、国が信用できないというのは国民にとって大変不幸なことだと思います。原子力技術者というのは数少なく、取り合いになっています。それを24時間待機させる能力を持っている組織は日本国内で国しかないんです。新潟県に災害対応で24時間待機している機関というのは県内では新潟県庁の危機対策課しかありません。でもそこに原子力の技術者を24時間365日張り付けられるかというと無理です。その能力を持っているのは国しかないのです。その国が住民の信頼を得られないというのは日本国民にとって不幸以外の何物でもないと思います。我々にできるのは国が出した調査が本当に信ずるに足るかどうか大学の先生等外部の有識者に委託をして再評価するのが精一杯です。この自治体の信頼が失われたら日本のエネルギー政策、地球温暖化問題も含めてものすごく不幸なことになると思います。やはり自治体は住民に信頼される自治体でなければいけないと思いますので、国を怖がらずに住民の声をしっかり伝えていかなければならないと思います。まず自治体が信頼されること、そして信頼できる国になってもらうことが大事だと今回の災害対応をやって強く感じております。

 今回全国から集まっていただき現場を見ていただいて、また住民の皆さんと、そして我々と意見交換をする時間を設けていただき感謝申し上げます。枕を高くして安心して住める、また過ごしやすい豊かな地域を作っていくということで皆様のお力をお借り出来ればと思います。本日はご静聴ありがとうございました。

*質疑
会場
 県知事は前通産省出身なので安全保安院の独立・分離についてのご意見をお伺いいたします。

泉田知事
 議会でも答弁しているのでストレートに申し上げます。「独立しろ」ということをずっとお願いしています。資源エネルギー庁は経産省別館の5階にありますが保安院も最初別館の5階にあった。さすがにまずいだろうと階を変えた経緯がある。経産省の中でも推進のセクションと実際に安全監督をするところを分けたほうが良いという意見は強力にあります。
 何かトラブルが生じた時に経済産業省にとってもデメリットだと思う。何かうまくいかないことがあると「やはり保安院が中にあるからだろう」と言われて役所の信頼を失うということがあるので経済産業省のためにも分離したほうが良いと思っています。

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