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買若梅(マイ・ロアメイ)さんの佐渡レポートvol.6

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0056399 更新日:2019年3月29日更新

 中国出身、佐渡在住の買若梅(マイ・ロアメイ)さんによる佐渡レポートを掲載しています。
 第6回目のテーマは「佐渡の人-私の友達・関口さん」です。

佐渡の人-私の友達・関口さん

関口さんの画像
関口さん

 人にとって、友達がいるということは楽しいことです。年齢が若いかどうか、お金持ちかどうかには関係なく嬉しいことです。佐渡に来てから、私は関口さんという方と知り合いになりました。今回は彼のことを書こうと思います。
 関口さんはいつもにこにこと嬉しそうな顔をしています。彼は「友達こそはわが財産、この世で一番幸福だと感じるのは友達。」と言います。実際、彼のまわりには多くの友人がいます。その人たちが彼に幸福感を運んでくるのか、彼自身が楽しい人なので多くの人が集まってくるのか、私には分かりませんが、いずれにせよ、とにかく彼はとても感じのよい、おもしろい人なのです。

海辺の関口さんの画像
海辺の関口さん

 関口さんの家は小さな集落の浜辺にあります。家を出るとすぐに海を見ることができます。彼は五艘の船を持っていて、休日にはこれらを使って海に出ます。私は関口さんと知り合いになって間もないころのことをよく覚えています。海で魚を獲ることを見たことがない友達のために、私は関口さんにお願いをしました。すると彼はいとも簡単に引き受けてくれました。その場で具体的な日にちまで約束してくれました。

佐渡の海の画像
佐渡の海

 約束の日、私はとても早く起き、友達と約束の場所に行きました。すると関口さんはもう船の準備をすませて、私たちを待っていてくれました。
 爽やかな朝の空気を吸いながら私たちは出発しました。船に乗って海に出て魚獲りを見るのは初めてです。私たちはわくわくしていました。海の風が柔らかく頬をなで、ほんとに爽快な気分です。お天気がよく、海も空も真っ青に澄んでいます。遠くには山並みがかすんで見えて、ほんとうに何ともいえない見事な美しさです。果てしなく広がる大海原に見とれていると人間のなんと小さいことか。俗世の悩みなどは一切、ここでは忘れ去ってしまいます。

関口さんの畑の画像
関口さんの畑

 しばらくすると関口さんが「さあ、目的地に着いたぞ!」と言いました。彼は「この網は前もって仕掛けておいたものだ。」「今日の運気はよいかどうか分からない。」と言い、網を絞り始めました。網は重い上に衣服をぬらします。彼は私たちに、脇に寄って見るように言いました。網は少しずつ絞られていきます。一匹、二匹、三匹 と、たくさん魚が跳ね上がってきます。なんという魚か名前は分からないけれど、私たちにはとても楽しいことでした。
 彼は網を引きながら私たちにおもしろい話を聞かせてくれました。談笑しているうちに一時間ぐらいが過ぎ、網は全部絞られました。彼は「天気の条件を考えると、今日は、まあまあだ。」と言いました。岸に帰るとき、彼は海上で船を大きく一回りさせて私たちを喜ばせてくれました。船を岸に止めた後、私たちは彼に教えてもらって網から魚を取り出しました。その後、関口さんは魚を整理しました。彼の魚の扱い方は、ほんとに見事な手さばきでした。

佐渡の秋の画像
佐渡の秋

 いつのまにかカモメがやってきて、「朝のごちそうだぞー。」と言わんばかりに私たちの周りを飛び交いました。それを見て関口さんは切り取った魚の頭をカモメに向かってほうり投げました。カモメの数がどんどん増えてきて、その賑やかなことといったらもう、ものすごいものでした。
 浜辺は静かに波が打ち寄せ、岸辺の海草が青々と光って。ああ、なんと美しい爽やかな朝なのでしょう。私はこの光景をいつまでも心に残しておきたいと思いました。

乗客の笑顔の画像
乗客の笑顔

 関口さんはもともと海が大好きで、海と深いかかわりがあるようです。彼は、生まれたのは北海道で、父母は炭鉱で働いていました。お母さんが佐渡の人であることから、彼が二歳の時、一家は佐渡に引っ越してきました。彼の話では、1954年、函館から青森に渡るとき、洞爺丸という船に乗る予定でした。しかしその時、父母に用事ができて次の船に乗ることになりました。
 後で分かったことですが、その洞爺丸という船は暴風雨にあい、沈んだのです。死者千人余りを出した日本における有名な海難事故です。一便遅くなったおかげで関口さん一家は無事、佐渡に来ることができたのです。

祭りの日の関口さんの画像
祭りの日の関口さん

 彼は4人兄弟の一番上です。家が海辺のせいか、海に対しては特別の思いがあり、大人になったら海と一緒の仕事に就きたいという夢を持っていました。例えば海上自衛隊に進むことを考えたり、海鮮料理店を開くために調理師免許を取ったり。いろいろな努力はしたけれど、夢と現実には大きな開きがありました。
 1968年、関口さんはようやく自分の心にあう仕事に出会いました。それは新潟交通佐渡のバスの運転手です。彼はこの仕事が気に入っているそうです。毎日、大好きな佐渡の海を見ることができる。大好きな佐渡の山を見ることができる。佐渡の町から町を結んでバスを走らせ、バスが来るのを待っていてくれる人々の顔が見られる。そして休みの日には海にも行ける。関口さんの海へのこだわりには、私はほんとに敬服するばかりです。

祭りの画像
祭り

 友達との交流を大事にする関口さんにとっては、たとえちょっとだけ会っても縁があれば友達になる。佐渡においてはそれぞれの地方に独自の風俗習慣があり、祭礼の日もそれぞれ異なる。関口さんの村も例外ではない。
 その祭礼の前日には、必ず「友達を連れて遊びにいらっしゃい。」と関口さんから連絡がある。その都度、にぎわう様子は言うまでもないが、なんといっても彼の作った料理がすばらしい。彼は、その日のために海に出て材料を用意し、当日は朝早くから献立を計画し、料理の準備に入る。

関口さん家の宴会の画像
関口さん家の宴会

 今年の祭りにも彼からの電話をもらい、私は友達と二人で彼の家に行きました。玄関に入ると靴がいっぱいあって中は賑やかな様子です。中に入ると豪華な料理が用意され、周りには大勢の人が座っていました。見ると学生さんのような若い人達でした。
 聞いてみると、佐渡の古い建築物の修復にやって来た建築大学生だということが分かりました。私は、どのようにして知り合いになったのですかと尋ねました。関口さんは、「偶然なんだ。」と言いました。関口さんは、遠方から佐渡に来て自活している彼らに関心を持ち、彼らにおいしい御馳走を作って持っていってあげたという。彼らは、関口さんの好意に感謝し、しばしば駆けつけてくるのだといいます。

祭りのごちそうの画像
祭りのごちそう

 この日、もう一人、彼の友達がいました。その人は歌を歌うのが得意な人で、関口さんのために歌を一曲作って、レコードに吹き込んでくれたそうです。この日も彼は元気よく、素敵な歌声で歌ってくれました。その場にいたみんなは手拍子を取りました。歌っているうちに、さらに何人かやってきました。人数が増え、みんなは飲んだり食べたり歌ったり で、大変な盛り上がりでした。

いっぷくする関口さんの画像
いっぷくする関口さん

 松栄家の歴史を語るには江戸時代にさかのぼらなければなりません。松栄家の御祖先は北前航路を通じて各地の物資を港に運んで商う、廻船業をしていました。今から350年前に佐渡に定住するようになったそうです。商売がもっとも盛んだった時は松栄家では「千石船」といわれる大形の貨物船(帆船)を3艘も持っていました。
 今でもそのころの松栄丸やその他の船の「帆」が保存されているそうです。現在の松栄さんの住宅はおよそ130年前に作られたもので、今もきれいに保存され、使われていて、しかも私宅であるというのは本当にすばらしいことです。

関口さんのお友達と一緒に(前の列の左から二番目関口さん、右から一番目作者)の画像
関口さんのお友達と一緒に(前の列の左から二番目関口さん、右から一番目作者)

 つい先日、私は彼を訪ねました。その時、二人のお友達がいました。私が挨拶を終わると談笑が始まりました。一人は本間さんという方で、「この人はね、馬鹿といってもいいくらい お人よしそのもので。私たちは親類じゃあないけど、死ぬまで付き合う友達だ。」と言います。もう一人の方は白瀬さんという方で、「関口さんと付き合うのが大好きだ。なにしろ、彼は、他人をどうやって愛すべきかを知っている人だから。」と言いました。
 私も心底、二人のことばに同感です。関口さんは「自然が好き」「海が好き」「友達が大好き」「友達からもらったすべてのことに、心の底から感謝している。」と、いつも以上に力を込めて話しました。

出発の画像
出発

 春夏秋冬 一年中、関口さんはバスを運転して佐渡の各地を走っています。彼の運転するバスに出会うと、彼はクラクションを鳴らして挨拶してくれます。関口さんは他の人と同じように私に接してくれます。そして、「外国から佐渡に来て生活するのは困難も多いでしょう。がんばってください。」とよく私を激励してくれます。
 彼は今日も多くの人の期待と喜びを乗せて、佐渡のどこかの道を走っていることでしょう。これが私の友達・関口喜一郎さんです。

日本語翻訳: 雑賀三郎


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