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研究成果詳細解説 胚を生産することが可能なウシ卵子凍結技術

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0408205 更新日:2021年7月12日更新

胚を生産することが可能なウシ卵子凍結技術

スライド1
 胚を生産することが可能なウシ卵子凍結技術について説明します。
スライド2
 はじめに背景です。
 現在、ウシの繁殖分野では、体外受精卵(以下、体外胚)の移植技術が全国的に普及しています。
 体外胚の作出方法ですが、まず、経腟採卵(以下OPU)により、生体内卵巣から採取した未受精卵子を約22時間成熟培養し、卵子を成熟させます。
 なお、OPUでは、繁殖障害牛や子牛、妊娠牛からも卵子採取が可能ですので、多くの牛から胚生産ができるという利点があります。
 成熟培養後、卵子を、凍結精液に由来する精子とともに培精し、体外受精を行います。
 6時間の体外受精後、卵子を7~8日間の発生培養を行うことで、体外胚を作出できますので、高能力雌牛から卵子を回収し、高能力雄牛と体外受精することで、優良胚の生産が可能です。
 また、作出した優良胚を牛に移植することで、優良産子を得ることもできますので、高能力産子の増産には重要な技術です。
スライド3
 OPUを実施するために必要な機器類についてです。
 OPUでは、超音波画像診断装置につながっている経腟プローブを牛の膣内に挿入し、卵巣を確認します。
 上部中央の赤線が卵巣で、黒く抜けているところが卵胞になります。
 プローブは先から吸引針が飛び出す構造になっており、超音波画像診断蔵置で確認しながら吸引針を卵巣に刺して、卵子ごと卵胞液を吸引します。
 吸引した卵胞液は検卵まで、恒温槽で保温しておきます。
スライド4
 OPUを利用したウシの胚移植技術は高能力産子の増産に有効な技術であり、もしウシ卵子を凍結保存することができれば、経済的価値の高い雌遺伝資源を長期的に利用できますので、母ウシ側からの育種改良の幅が広がると思われます。
 しかし、凍結した卵子は、融解し、体外受精した後の胚への発生率が極めて低いことが知られており、凍結卵子の胚発生率を改善する必要があると考えられます。
 そこで、ウシ卵子の培養方法と凍結方法を改良し、凍結卵子の胚発生率向上させた、胚生産が可能となる新たなウシ卵子凍結技術の確立を目指しました。
スライド5
 材料及び方法です。
 スライドに示す方法で卵子の培養と凍結を実施しました。
 培養と凍結法を改良した方法を試験区(改良法)、当センターが今まで実施した方法を対照区(従来法)とし、赤字で示す部分が改良した点になります。
 供試卵は、両区ともにOPUにより採取した黒毛和種生体由来の未成熟卵子を用いました。
 成熟培養液は、5%新生子牛血清(NCS)、0.02AU/ml 卵胞刺激ホルモン(FSH)を添加したM199を用い、試験区には卵子の耐凍性を向上させるため、L-カルニチンを添加しています。
 成熟培養後の卵子は細ピペットで卵丘細胞を1~2層程度に剥離した後に卵子凍結を実施しました。
 試験区では、自作器具を用い、また耐凍剤の組成を変更した凍結液で卵子凍結を実施しました。

スライド6
 卵子凍結で用いた凍結器具ですが、対照区では、A社から市販されている凍結器具を用いました。
 試験区では、卵子搭載部にナイロンメッシュを用いて自作した器具を用いています。
 この器具は、0.25ml移植ストローにナイロンメッシュを装着し、0.5ml精液ストローを0.25mlストローの鞘としています。
 保存時に液体窒素中で浮遊しないよう0.5mlストローには針金を入れており、1本あたり約58円で作成可能です。

 卵子の凍結法は、超急速ガラス化保存法で実施しました。すなわち、平衡液で卵子を平衡後、凍結液に卵子を投入し、卵子の洗浄等を実施し、最終的に、卵子を微量の凍結液とともに凍結器具に置き、液体窒素中に投入して、卵子の凍結を実施しました。
 なお、卵子は凍結液に投入後、50秒~60秒の間に液体窒素へ投入しています。
スライド7
 凍結卵子の融解は、凍結器具の卵子搭載部を38度に保温した0.5M ショ糖を含む融解液に浸漬することで融解し、その後、異なるショ糖濃度の希釈液に静置することで、凍結液の段階希釈を行いました。
 凍結液を希釈した卵子の蘇生率を向上させるため、試験区ではスライドに示す条件で修復培養を実施し、2時間培養後、細胞膜が破綻していない卵子を生存と判断し、体外受精を実施しました。
 6時間の体外受精後、極細ピペットで卵子の透明帯の表面から卵丘細胞と精子を除去し、5% NCS加CR1aaを用いて発生培養を実施しました。
 なお、試験区には胚発生率を向上させるため、L-カルニチンを添加しています。
 これらの方法を用いて、卵子の培養および凍結を実施し、凍結卵子の体外受精後の分割率および胚発生率を調査しました。
スライド8
 結果の説明に移ります。
 凍結卵子の体外受精後の分割率および胚発生率についてです。
 棒グラフの灰色が試験区、白色が対照区で、左部に分割率を、右部に胚発生率を示しています。
 体外受精後の分割率は、試験区が60.1%、対照区が20.0%でした。
 また、体外受精後の胚発生率は、試験区が31.5%、対照区が0%であり、改良法で卵子を培養並びに凍結することで、体外受精後の分割率と胚発生率を向上できることがわかりました。
スライド9
 本試験で、実際に凍結卵子から生産された胚をスライドに示します。
 左図が体外受精後2日目に分割した卵子の写真で、黒矢印が分割している卵子になります。
 また、右図が体外受精後8日目に生産された胚の写真で、白矢印が胚になります。
 従来法では、凍結卵子から胚を生産することができませんでしたが、改良法により凍結卵子から胚を生産することが可能となりました。
スライド10
 まとめです。
 成熟培養液へのL-カルニチンの添加、融解卵子の修復培養の実施および発生培養液へのL-カルニチンの添加といったウシ卵子の培養方法の改良、および卵子凍結液の組成を変更、卵子融解方法の変更および自作器具での卵子凍結といった凍結方法の改良により、これまで低かった凍結卵子の体外受精後の胚発生率が改善され、凍結卵子から胚を生産することが可能となり、ウシ卵子凍結保存技術を確立することができたといえます。
 このウシ卵子凍結技術により、希少系統や高能力雌ウシの遺伝資源を長期的に保存することが可能となりますので、これまで実現できなかった世代を超えた交配等の育種改良に有用な技術となると考えています。
スライド11

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