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研究成果詳細解説 黒毛和種去勢肥育牛の出荷月齢早期化を可能にする飼料給与技術

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0408204 更新日:2021年7月12日更新

黒毛和種去勢肥育牛の出荷月齢早期化を可能にする飼料給与技術

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 黒毛和種去勢肥育牛の出荷月齢早期化を可能にする飼料給与技術について説明します。
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まずは、黒毛和種の肥育経営を取り巻く背景について、触れていきます。
肥育して販売するための「素牛」の価格は、近年1頭80万円前後で推移しており、高止まりの状況です。
この水準がどの程度か示すため、平成10年代、平成一桁の時代の水準を示すと、それぞれ、約50万円、約35万円となっており、
いかに高い状況が続いているかわかると思います。
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この素牛価格の高止まり状況を克服するため、各肥育経営では経営形態を転換する動きがみられます。
これまで、10か月齢前後で素牛を市場から導入し、30か月齢前後まで肥育していた体系を改め、子牛を生む繁殖牛を新たに導入、一部でも素牛を自家産で確保し、肥育しようとする一部一貫経営や、より若齢、4か月で、地域内酪農家から還流される受精卵移植の産子や県外市場からの導入で肥育しようという動きです。
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一貫経営や若齢導入では、これまでの10か月齢前後で導入した素牛より若い時から、その農家にいることになりますので、これまでより早期に肥育を開始することができるようになります。
そこで、この環境を活かし、早期に肥育を開始することにより、出荷月齢をこれまでより早期化する技術が求められます。
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 しかし、早期に肥育を開始したとしても、従来型の肥育を続けていては、単純に出荷月齢を早めると、重量は小さく、品質が劣ることが容易に想像できます。
 出荷月齢を早期化し、これまでと遜色ない重量、品質を確保するためには、発育を加速し、発育の質と量の傾きを高めなければなりません。
 そのための肥育方法=飼料増給方法を研究する必要があります。
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早期肥育で出荷月齢を早期化し、これまでと遜色ない重量・品質を確保するため、発育を加速する手法=飼料増給方法、の検討に向け、このように材料および方法を設定しました。
これまでの10か月齢より早い、7か月齢から肥育を開始し、肥育前期として設定した7~11か月齢において、粗飼料多給による増給と、従来から試みられがちな濃厚飼料多給による増給を行い、発育の促進が可能か、発育と肉質がどう異なるかを検討しました。
供試牛は黒毛和種の去勢牛で、父牛はいずれも気高系、各区6頭の12頭を用いました。
H29~30の第1期は、前期粗飼料多給体系として、粗飼料由来TDN割合40%で分離給与する体系と前期濃厚飼料多給体系として、粗飼料由来TDN割合25%で分離給与する体系を設けました。
R1~2の第2期は、粗飼料多給をより効果的に行えるよう、前期発酵TMR(Total Mixed Ration:混合飼料)給与体系として、粗飼料由来TDN割合40%の発酵TMR給与とする体系と、第1期と同様に前期濃厚飼料多給体系を設けました。
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 各体系の飼料増給方法を説明します。
 表1のとおり、
 (1)前期粗飼料多給体系(分離給与)、
 (2)前期発酵TMR給与体系、
 (3)前期濃厚飼料多給体系(分離給与、第1期、2期共通)
のいずれかの体系に従って、7か月齢から肥育を開始します。
 太字・斜体で示している各体系に特有の飼料の増給または維持の時期に留意しながら、着実に摂取させます。
 肥育前期での各体系特有の増給を終了したのち、いずれの体系も14か月齢を目標に濃厚飼料を10kgまで増給し、出荷まで維持します。
 以上の増給方法を通じ、発育を加速し、これまでの出荷と遜色ない重量・品質等を確保しようとするものです。
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飼料増給に用いた各配合飼料、発酵TMRの成分と配合割合は表2のとおりです。いずれも生産現場で用いられている飼料と大きく変わらないオーソドックスな内容です。
発酵TMRについても、前期粗飼料多給体系おいて分離給与で給与していた粗飼料と濃厚飼料の割合をそのままに、乾物率を50%(水分50%)程度に調製したものです。
写真は発酵TMRを食べる供試牛で、水分があり、濃厚飼料が粗飼料に付着しているため、濃厚飼料の選び食いができず、粗飼料を効果的に多給できています。
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以下、肥育試験の結果を示します。いずれの体系も順調に発育し、全国和牛登録協会が示す標準発育曲線の上限値を上回る推移を示しました。
その結果、これまでの30か月齢前後での出荷時の体重となる800kg程度を、26~27か月齢で達成することができました。
体系間に有意な差はみられませんでした。
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摂取した飼料の量と増体重の関係を見てみます。1kgの増体重を得るために必要な飼料の量である飼料要求率は、図3のとおり、前期発酵TMR給与体系と前期濃厚飼料給与体系で8.7と変わりませんが、前期濃厚飼料多給でばらつきが大きいことがわかりました。前期濃厚飼料多給では、前期の粗飼料が少なく、第一胃の発達が劣り、濃厚飼料多給への耐性に個体差が現れるため、乾物摂取量に対する増体重がばらつく結果となりました。前期発酵TMR給与体系が、粗飼料多給のしやすさとばらつきのない増体に最も適していると考えられます。
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供試牛の出荷成績を示します。各体系間に有意な差はみられませんでした。第1期、第2期いずれも、出荷月齢を早期化しながら、枝肉重量・ロース芯面積・ばらの厚さ・BMS(Beef Marbling Standard:牛脂肪交雑基準)といった枝肉の主要形質で全国平均と遜色ないレベルを確保できました。また、出荷月齢早期化で懸念されがちな「しまり」についても、低下は認められないとともに、口溶けの良さを反映するMUFA、一価不飽和脂肪酸割合も30か月齢前後での出荷である県内ブランド牛と遜色ないことがわかりました。また、効率的な肥育につながったことから、県内ブランド牛事例を比較して、1頭当たり約7万円飼料費を抑えることができました。
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まとめです。
7か月齢から早期に肥育を開始し、的確に飼料を増給、発育を加速することで、これまでより3~4か月早い26~27か月齢での出荷が可能となります。
その際、枝肉6形質に加え、締まり、脂肪酸組成においてもこれまでと遜色ない仕上がりとすることが可能です。

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最後に留意点です。
前期粗飼料多給体系(分離給与)では、粗飼料のかさ(容積)が大きいため、着実な摂取と濃厚飼料の選び食い防止に向け、多回給与やえさ寄せ、嗜好性の良い牧乾草の選択が必要となります。
前期発酵TMR給与体系では、水分があり、これまでの風乾物の給与と異なりますので、TMR開封後の変敗に注意してください。
TMRは着実な粗飼料摂取につながりますが、水分があるため、重く、急激な増給は残飼が増えますので、増給は1kg/月程度とした方がいいでしょう。
この成果は、気高系父牛の産子である黒毛和種去勢牛24頭を用い、飼養したデータに基づきます。
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