本文
コシヒカリの有機質100%肥料による3回目穂肥の施用法
コシヒカリの有機質100%肥料による3回目穂肥は、高温登熟条件では有機質50%肥料と概ね同程度の品質向上が期待できます。施用量は1kg/10aをめやすとします。施用時期は出穂期6~3日前が適当です。
コシヒカリの有機質100%肥料による3回目穂肥の施用法 [PDFファイル/170KB]
近年の一般的なコシヒカリの栽培法である、有機入り肥料栽培における玄米品質の低下について、説明します。
左図は、出穂前の葉色が淡いと、その後の高温登熟の条件下では、白未熟粒の発生が増加することを示しています。
右図は、低地力ほ場等で、登熟後半の窒素供給が不足して栄養凋落により、基部未熟粒の多発により品質低下しやすいことを示しています。
これらの品質低下は、近年、出穂後の高温化が進むなかで有機入り肥料栽培では窒素供給量が不十分になりやすいことが、その要因として考えられます。
穂肥2回の分施体系による有機入り肥料栽培では、化成肥料の施用量が制限されるため、出穂後の栄養が不足する場合に有機質100%肥料による3回目の穂肥施用が必要となります。
ここでは、後期栄養を維持し玄米品質を向上させる有機質100%肥料による3回目穂肥の施用法について説明します。
この図は各穂肥施用別の出穂期以降の葉色の推移を示しています。
出穂期前6日に3回目穂肥施用として、有機質50%肥料を1kg施用した場合は出穂期から葉色が濃くなるのに対して、有機質100%肥料では葉色の変化は緩慢で、2kg追肥が有機質50%肥料1kg施用と登熟後期で同程度の葉色となる程度です。
このように有機質100%肥料による3回目穂肥は、同じ窒素施用量では有機質50%肥料よりも出穂後の葉色を濃くする効果は小さいことが分かります。
この図は3回の穂肥を分施する体系で、各回で有機質50%肥料にかえて有機質100%肥料を施用した場合の葉色の推移を示しています。
有機質100%肥料は有機質50%肥料よりも肥効が劣るため、1回目及び2回目穂肥に有機質100%肥料を施用すると、出穂前に葉色が低下することがこの図からわかります。またこれにより収量、品質が不安定となります。
このことから、穂肥分施体系で有機質100%肥料を利用する場合は、出穂前に1、2回目の有機質50%肥料の2回の穂肥により十分な窒素供給をしたうえで、出穂後の気象や稲体の栄養状態が予想しやすくなる、穂肥3回目の時期に有機質100%肥料の利用を判断するのが適当と考えられます。
この図はほ場の地力別に3回目穂肥法による玄米品質及び蛋白質含有率への効果を表しています。2本の棒グラフは登熟期が平温条件及び高温条件の整粒歩合を示しています。
左図の標準的な地力のほ場では、平温登熟条件や出穂6日前の葉色値が33を超える場合は有機100%肥料施用による品質の向上はみられませんが、出穂6日前の葉色値が33以下で出穂後高温の場合には、施用量1kg/10aで有機質50%肥料と同程度の品質向上効果が期待できます。
いっぽう、右図の低地力のほ場では、出穂後平温条件でも有機100%肥料施用による品質の向上効果がみられます。出穂後高温の場合には施用量に応じて効果が高まり、2kg/10aで有機質50%肥料と同程度の品質向上効果が期待できることがわかります。
この図は低地力ほ場での3回目穂肥の施用量別に、幼穂形成期の葉色と玄米蛋白質含有率の関係を示しています。幼穂形成期の葉色(SPAD値)が31以上の場合に、3回目穂肥を2kg/10a施用すると玄米タンパク質含有率は6.5%を超えています。
幼穂形成期の葉色(SPAD値)が31以上の場合は窒素施用量は1kg/10aを上限とします。
この図はほ場の地力別に3回目穂肥の施用時期による平温及び高温条件での品質への効果を表しています。
高温登熟条件では、標準地力、低地力ほ場とも出穂期施用の品質効果がみられず、低地力ほ場では10日前施用も品質向上効果が得られていません。
施用時期は6~3日前が品質向上効果が安定していると考えられます。
この図は3回目穂肥の施用量別の玄米タンパク質含有率を表しています。平成24、25年度は高温登熟条件、平成26、27年度は平温登熟条件の値です。
高温登熟条件の低地力ほ場の有機100%肥料の玄米タンパク質含有率については、有機100%肥料が有機50%肥料の玄米タンパク質と同程度以下であること、標準地力ほ場の高温登熟条件の有機50%肥料の玄米タンパク質含有率が6.3%(平成25年)であること、低地力ほ場の有機50%肥料の玄米タンパク質含有率が標準地力ほ場と同程度か少ないことから、6.5%以内におさまると考えられます。
留意点1:本試験で供試した低地力の現地ほ場(壌土)は、標準的な地力の作物研究センターのほ場(軽埴土)に比べると、作土の次層(下層土)の可給態窒素が少なく(左表)、土壌の貫入抵抗が大きく作土の下層が硬く圧密(右図)で、地力が低く、生育後半の窒素供給が不足するほ場です。
留意点2:本試験に用いた有機質100%肥料は、N:P:K=7:2:7(%)です。
留意点3:登熟温度条件については、試験年次の平成26、27年の8月の平均気温は25.9、26.0℃で、平年(26.0℃)並みの平温条件でした。高温登熟条件の検討は、試験区ごとに出穂後1か月間、穂を透明な筒に入れることで穂の付近の日中の気温を約2℃上昇させる処理で行いました。
PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe社が提供するAdobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。(無料)