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出穂前のケイ酸追肥による登熟期高温年の品質低下軽減
可給態ケイ酸が基準値に満たない地域で、出穂40日前から穂肥1回目適期に追肥に対応したケイ酸質資材を散布すると、その後の登熟期が高温になっても、コシヒカリの品質低下が軽減されます。
出穂前のケイ酸追肥による登熟期高温年の品質低下軽減 [PDFファイル/123KB]
登熟期に高温になると品質が大きく低下することが問題となっています。
そこで、緊急対応技術として出穂前のケイ酸資材施用による品質低下軽減効果について紹介します。
出穂後の登熟期が高温になった場合、ケイ酸が有効であることが多数報告されています。
土壌にケイ酸が少ないと、根の給水力が低下し、葉からの水分の蒸散(人でいうと汗をかく作用)が低下し、葉温(人間の体温)が上昇します。
それがストレスとなり、品質が低下します。
土壌にケイ酸が多いと、蒸散量が増加して、葉温があまり上がらず、品質低下が抑制されます。
もともとケイ酸含量が低いほ場で、ケイ酸施用による土づくりを実施した区と、実施していない区の整粒歩合をまとめたグラフです。
平年の場合、土づくりをしてもしていなくても、品質に大きな差はみられません。
しかし、H18やH22の登熟期高温年、また人為的に高温ストレスをかけた場合、品質は大きく低下しますが、土づくりによってその低下程度は小さくなります。
しかし、土づくりは一朝一夕にはできません。
土づくりを始めてからの土壌ケイ酸含量の推移をまとめたグラフです。
土づくりによって、土壌ケイ酸含量に差が出るまで最低5年ぐらいかかります。
試験では、土壌ケイ酸含量が低いほ場において、高温登熟年に対する緊急対応技術として、出穂前のケイ酸追肥が玄米の品質に与える効果について検討しました。
試験は、下越地方にある土壌ケイ酸が基準値未満のほ場と、農総研内にあるケイ酸が高いほ場で実施しました。
供試したケイ酸質資材は、追肥に対応した資材で、袋に「高溶出ケイ酸」と書いてあり、追肥できると書いてある肥料を用いました。
施肥時期は、出穂40日前(最高分げつ期頃)、穂肥1回目適期、出穂期の3水準とし、追肥量は、資材の標準施用量(1~2袋の中間)の30kgとその倍量の60kgとしました。
登熟期に、通常気温と、人為的に高温ストレスをかけた区を設置しました。
ここからは、低ケイ酸ほ場での結果です。
成熟期の茎葉のケイ酸濃度をグラフに示しました。
出穂前のケイ酸追肥で、茎葉のケイ酸濃度が無施用に比べて上昇しますが、時期や量による明確な傾向はみられませんでした。
登熟期のSAPDの推移をまとめたグラフです。
出穂後の葉色は、ケイ酸追肥で無施用より濃く推移しました。
その効果は、出穂40日前で高まっていましたが、施肥量による差は見られませんでした。
追肥時期別の整粒歩合についてまとめたグラフです。
施肥量による差は無かったので、30kg施用のデータのみ示します。
高温ストレスが無い場合(グラフ左側)、出穂40日前や穂肥1回目適期の追肥で、品質が向上しました。
高温ストレスをかけると(グラフ右側)、整粒歩合は低下しますが、出穂前のケイ酸追肥でその減少程度は小さくなりました。
また、高温時には出穂期の追肥でも効果が認められました。
2年試験を実施した後の、土壌ケイ酸濃度を示したグラフです。
2年の追肥では、土壌ケイ酸は増加しないので、土づくりも並行して行う必要があります。
ここからは、高ケイ酸ほ場での結果です。
高ケイ酸ほ場では、ケイ酸を追肥しても茎葉のケイ酸濃度は変わりませんでした。
登熟期の葉色についても、無施用と違いはありませんでした。
品質についても、低ケイ酸ほ場ほど明確な効果は見られませんでした。
追肥に対応しているケイ酸質資材を出穂40日前から穂肥1回目適期に、肥料の推奨施肥量追肥すると、茎葉のケイ酸含量が増加するとともに、出穂後の葉色が濃く推移し、登熟期高温による品質低下が軽減できました。
その効果は、高温年ではなくても認められるので、高温予想が外れても全く無駄にはなりません。
ただし、この技術は土壌ケイ酸が低いほ場限定の成果で、ケイ酸が高いほ場ではほとんど効果がないので、適応ほ場には留意する必要があります。
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