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コシヒカリの初期生育を改善する有機入り肥料の基肥施用時期
有機入り肥料の施肥を湛水開始日に近づけることで移植時の土壌中のアンモニア窒素含量が多くなり、コシヒカリの初期生育が改善します。また、有機入り一発肥料の場合、施肥が湛水開始日より早すぎると、穂肥分の肥料の溶出が早まり、収量が低下します。
コシヒカリの初期生育を改善する有機入り肥料の基肥施用時期 [PDFファイル/265KB]
有機入り肥料を基肥として用いた場合、コシヒカリの初期生育が劣ることが問題となっています。
そこで、初期生育を改善するための基肥の施用時期について紹介します。
減農薬減化学肥料栽培の増加で有機入り肥料の使用が増加しています。
有機入り肥料を用いた場合、初期生育が劣り、適期に中干しに入れず、その後の生育調節が困難になりやすくなります。
化成肥料は施肥直後から窒素が100%溶出しますが、有機入り肥料は、有機の割合や原料によって程度の違いはありますが、施肥後時間をかけて溶出します。
そのため、有機入りの場合は、化成肥料に比べて、初期生育が劣りやすくなります。
有機入り肥料で初期生育が劣ると、収量欲しさに中干しが遅れてしまいます。
梅雨に入り、中干しが不十分になり、生育過剰で穂肥を施用できず、後期栄養不足や倒伏で品質が低下しやすくなります。
平成23年の研究成果で、化学肥料栽培において、基肥散布から湛水開始までの期間が長いと窒素利用率が低下することを提示しました。
有機入り肥料でも、同様のことが言えるのか調査を行いました。
試験は有機入り肥料の分施型と一発型をそれぞれ湛水開始日と、その一週間前(耕起日にあたる)と2週間前に施肥し、有機入り肥料の時期別溶出量や移植直後の土壌中のアンモニア態窒素量、水稲の生育・収量及び品質について調査しました。
試験結果です。
基肥散布時期別の湛水開始日の肥料溶出率を示したグラフです。
湛水直前の溶出率はほぼ0でした。
しかし、2週間前や1週間前に散布した場合、年次で傾向の違いはありますが、一発型で約2~4割、分施型で5~8割の窒素がすでに溶出していました。
この溶出した窒素の一部が、化学肥料と同様に、湛水までの間に脱窒・溶脱によってほ場外へ流亡したと考えられます。
施肥時期別の移植時における土壌中のアンモニア態窒素量をグラフに示しました。
施肥時期が早いと、溶出した窒素の一部が溶脱や脱窒で流亡するため、移植時の土壌中の窒素量が少なくなります。
施肥時期別の移植1か月後の草丈と茎数のグラフです。
施肥時期が早いと、移植時の土壌中の窒素量が少なくなるため、初期生育が劣ります。
その結果、茎数が中干し開始の目安に届きにくくなり、中干しが遅れやすくなります。
有機入り肥料の施肥時期をできるだけ湛水開始日に近づけることで、初期生育の向上を図ることが可能となります。
今回の試験では、湛水開始1週間前の施肥と耕起日を同日で行いました。
耕起しておけば、大丈夫なのではないか?と当時は想定していました。
耕起後、1回まとまった雨があれば、土壌が湿って溶脱や脱窒はおこらないのではないかと考えたのですが、今回試験を行ったH26,27は、この間まったく雨が降らず、土壌がよく乾燥したため、窒素の流亡が起こり、今回の結果になりました。
今後も地球温暖化による異常気象で、このような年も十分起こりうると考えられます。
具体的な対応策としては、施肥後速やかに耕起して、その後なるべく早く湛水を開始することが必要と考えています。
留意点としては、初期生育改善し、さらに中干しが遅れると大惨事になることは容易に想定できます。
有機入り肥料は化成肥料に比べて中干し期間の窒素吸収量が多く、茎数増加が多いなどの特徴があります。
有機入り肥料で中干しを遅らせるのは大きなリスクです。 移植1か月後をめやすに、適期中干しを徹底しましょう。
ここからは、一発型に限定した結果です。
一発型の場合、基肥施用時に穂肥分も一緒に施肥することになります。
この穂肥分について、施肥時期の影響があるのか否かを調べるため、最高分げつ期以降も調査を継続しました。
最高分げつ期~幼穂形成期、幼穂形成期~出穂期、出穂期~成熟期の各期間における穂肥分肥料の溶出量を示したグラフです。
施肥時期が早いと、幼穂形成期前に溶出する肥料分が増加して、その分出穂後の溶出量が減少し、後期栄養が不足しやすくなります。
一発型の施肥時期別の稈長と精玄米重をグラフに示しました。
施肥が早いと出穂後の後期栄養が不足し、収量が減少しました。
一方、施肥を遅くすると、収量増により倒伏が大きくなったり、玄米タンパク質含有率が増加しやすくなります。
適期中干しや出穂後の飽水管理等適切な水管理を徹底する必要があります。
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