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福島第一原子力発電所事故の検証~平成25年度の議論の状況~
現在「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」では、福島第一原子力発電所事故の検証を効率的に進めるため、6つの課題について少人数による「課題別ディスカッション」を行っておりますが、このたび、平成25年度の議論の状況の整理となる「福島第一原子力発電所事故の検証」を報告いただきましたのでお知らせします。
課題別ディスカッションにおける議論のポイント等(一部抜粋)
平成25年度に実施した6つの課題別ディスカッションにおける議論のポイント、今後の課題、議論の状況を課題毎に記載した。
なお、議論の詳細については「議論の整理表」にとりまとめた。
いずれの課題についても、平成26年度も議論を継続することとしており、今後改めて安全管理に関する技術委員会で整理する予定である。
(課題1)地震動による重要機器の影響
- .議論のポイント
- 非常用復水器(IC)等の重要配管に小破口冷却材喪失事故(LOCA)は起きなかったのか
- 津波はいつ発電所に到達したか。地震動による循環水系の損傷の可能性はあるのか
- 今後の課題(今後検証する事項等)
- 非常用復水器(IC)等の重要配管における小破口冷却材喪失事故(LOCA)の有無
- ア.1号機現場や水素爆発の状況
- イ.公表データの信頼性
- ウ.1号機原子炉建屋4階の現場調査の実施状況
- エ.1号機原子炉建屋4階の出水事象の調査状況
- オ.1号機原子炉建屋5階の大物搬入口の蓋と水素爆発の関係
- カ.格納容器電気ペネトレーション等からの水素漏洩の状況
- キ.全交流電源喪失(SBO)後の逃がし安全弁(SR弁)の動作状況
- 津波到達時刻及び地震動による循環水系の損傷の可能性
- ア.津波の敷地到達時刻
- イ.非常用電源関係機器の検査等の状況
- ウ.循環水系の内部溢水の可能性
- エ.交流電源系停止のプロセス
- 非常用復水器(IC)等の重要配管における小破口冷却材喪失事故(LOCA)の有無
- 議論の状況(詳細は「議論の整理表」参照)
- 非常用復水器(IC)等の重要配管に小破口冷却材喪失事故(LOCA)は起きなかったのか、委員及び東京電力の基本的な考え方を確認した。
- 津波はいつ発電所に到達したか、地震動による循環水系の損傷の可能性はあるのか、委員及び東京電力の基本的な考え方を確認した。また、津波の写真、敷地到達時刻の分析、非常用電源関係機器の状況、循環水系の内部溢水等について議論した。
(課題2)海水注入等の重大事項の意思決定
- 議論のポイント
- 海水注入の意思決定に問題はなかったのか。
- ベントの意思決定に問題はなかったのか。
- 非常用復水器(IC)の操作等に問題はなかったのか。
- 公表データに関して確認が必要ではないか。
- .今後の課題(今後検証する事項等)
- 廃炉にする海水注入が発電所長のみの判断で本当にできるのか。
- 躊躇なく事故収束に向けた対応が行えるように、廃炉となった場合の保険制度などが必要ではないのか。
- 全電源喪失時などには、緊急事態宣言の時点で直ぐに海水注入すべきだったのではないのか。
- ベントは誰が決定したのか。政府がベントを遅らせた事実はあるのか。
- 避難確認はどのようにしたのか。確認が終わらないとベントはできないのか。
- 直ちにベントしていれば水素爆発は防ぐことができたのではないか。
- 緊急事態宣言の発出までに何故2時間も要したのか。事故対応に影響はあったのか。
- 非常用復水器(IC)のフェイルクローズの設計思想は正しかったのか。
- 非常用復水器(IC)の動作を確認しなかったのはなぜか。
- テレビ会議の確認が必要ではないか。
- 議論の状況(詳細は「議論の整理表」参照)
- 東京電力から、運転に関しては当直長、当直長が判断を迷う場合には発電所長が最終判断者となることが基本ルールであるとの説明があったが、海水注入に関しては文書上で明確にされていなかった。
- 事故時操作手順書は、「事象ベース」、「徴候ベース」、「シビアアクシデント」が整備されており、事故の進展に応じて切り替えていくとしていた。しかしながら、事故当時の対応においては、全電源喪失により炉心の状態を認識できなくなる等、想定を大きく超える事故であったため手順書を使用することができず、臨機の判断を余儀なくされた。
- 東京電力から、注水の必要性を強く認識しており海水注入に躊躇がなかったとの説明があったが、海水よりも淡水を優先したため、その切替えに時間を要して注水が停止した事例があった。また、1号機の海水注入を止めること、3号機の注水ラインを海水から淡水へ切り替えること等について官邸の意向が官邸派遣者より伝えられ、東京電力本店も外部の意見を優先したため現場を混乱させた事例があった。
- 委員から、原子炉等規制法という法律的な権限という意味では、国にも事故対応に関する権限がある。現場の技術的な判断をゆがめられることがないよう、現場に一番近いところにいる発電所が、責任を持って判断できるような仕組みが必要との指摘があった。
- 委員から、運転操作手順書と意思決定の基準という問題があるが、今回の事故では、全電源喪失など運転操作手順書の想定が不十分であった。また、手順書の想定を超えるような判断に迷うような場合に、頼れる基準や判断者が明確でなく問題であったとの指摘があった。
(課題3)東京電力の事故対応マネジメント
- .議論のポイント
- 注水系統の切替(RCIC→HPCI→DDFP→消防車)の判断は正しかったのか
- 判断や指示の指揮系統は、機能していたのか
- 東京電力から外部(国、自治体、OFC等)への連絡はどのような状況だったのか
- 免震重要棟は機能していたのか
- 1号機の経験があったのになぜ水素爆発を防ぐことができなかったのか
- 想定外事象への対応は考慮されていたのか
- 今後の課題(今後検証する事項等)
- 各責任者の判断は正しかったのか
- 現場および東電本店対策本部の指揮命令系統は機能していたのか
- 東電本店対策本部と発電所対策本部や他の発電所等への連絡はどのように行われていたのか
- 発電所対策本部および東電本店対策本部から外部への連絡はどのように行われていたか
- 発電所対策本部はどのような状況であったか
- 想定外事象への対応は事前に考慮されていたのか
- 議論の状況(詳細は「議論の整理表」参照)
- 注水系統の切替について、作業を実施した当直員の判断能力や切替手順の状況を確認。切替が不調であったことが本部長に報告されるまで時間を要したことや電動弁の開閉を事前に確認しないで注水を停止したこと等の問題があった。なお、最近の報告では、高圧注水系(HPCI)については、停止する直前には注水ができていなかった可能性が高いと評価されている。
- 現場の指揮命令系統について、東京電力の指示伝達状況や人員配置、命令系統の問題点を確認。委員からは、正しい指示が伝わらない指示方法、業務の集中及び複数号機を担当させたことや人員不足について等の指摘があった。また、爆発を起こした号機から別の号機に応援に回るなどの人員のやり取りは行われていなかったことを確認した。
- 官邸の意向を尊重させた本店対策本部からの指示により時間の無駄が発生したのでは、という委員からの質問があり、海水注入等に時間的ロスがあったことが確認された。また、東京電力は官邸を説得して、首相の福島第一原子力発電所行きをやめさせるべきだったとの意見もあった。
(課題4)メルトダウン等の情報発信の在り方
- 議論のポイント
- メルトダウン等の情報発信が遅かったのではないか
- 情報発信に問題があったのではないか
- 今後の課題(今後検証する事項等)
- メルトダウンの情報発信が遅かったのではないか
- 東京電力の対応は正しかったのか
- 東京電力から外部(国,自治体,OFC等)への連絡はどのような状況だったか
- 国等の対応は正しかったのか
- 議論の状況(詳細は「議論の整理表」参照)
- メルトダウンの公表がなぜ2ヶ月もかかったのか、東京電力等の対応を確認した。
東京電力からは、官邸から社長に対して情報公開時の事前確認指示を受けていたこと、保安院の会見で「炉心溶融がほぼ進んでいるのではないか」と説明した会見者がその後会見担当者から外れたこと等から、「炉心溶融」、「メルトダウン」という用語を使用してはいけないという一種の「空気」のようなものが醸成され、解析結果が出るまでメルトダウンの事実を公表しなかったとの説明があった。
委員からは、メルトダウンを認めていれば事故対応や住民の対応が違っていたのではないか等の指摘があった。
「空気」とか「集団心理」という曖昧な回答しかなく、今後、客観的な事実を求めていくこととしている。 - 3号機の3月14日の圧力上昇の公表に係る東京電力等の対応を確認した。
東京電力は福島県から公表するように強い要請があったにもかかわらず、保安院の了解が得られなかったため公表しなかったことを確認した。
- メルトダウンの公表がなぜ2ヶ月もかかったのか、東京電力等の対応を確認した。
(課題5)高線量下の作業
- 議論のポイント
- 放射線量の上昇が発電所内外の事故対応・支援活動にどのような影響を与えたのか。
- 線量限度の違いにより事故対応・事故進展にどのような違いが生じるのか。
- 今後の課題(今後検証する事項等)
- 建屋内、敷地内の事故初期の線量推定
- 被ばくの主要因となった線源の形態や時系列
- 4号機使用済燃料プールの水位確認等、高線量のため支障が生じた作業の事故進展への影響
- 4号機使用済燃料プールの事故対応手順書
- 資機材輸送等、高線量のため支障が生じた支援活動の際の高線量の程度と、その事故進展への影響
- 作業継続可否等、被ばくに係る作業員の判断
- 作業員の線量計のアラーム設定と作業内容の関係
- 被ばく限度や高線量下の作業に関連する労働法制の検討のための課題抽出
- 高線量下の作業に対応する専門組織体制の検討のための課題抽出
- 議論の状況(詳細は「議論の整理表」参照)
- 放射線量の上昇による発電所内の事故対応への影響について、4号機燃料プールの水位確認や1号機原子炉建屋B1Fトーラス室でのS/Cベント弁開操作等、具体な事例を確認。ただし、原子炉建屋内などでは放射線以外のリスク要因も大きく関与したことも確認。また、外部からの支援活動への影響について、発電所への資機材輸送が拒まれた等、具体的な事例を確認。委員からは事故進展への影響等に関する指摘があった。
- 作業員の被ばくや被ばく管理の方法について、6名の作業員が緊急時の線量限度(250mSv)を超えて被ばくしたこと、その原因は防護マスクやホールボディーカウンターの備えが不十分であったこと、協力会社や資機材輸送会社に対する教育が不十分であった等の問題点を確認。委員からは事故時には時間が無いため平常時から十分な準備をしておくことが重要等の指摘があった。
- 線量限度の違いにより事故対応にどのような違いが生じるのかについて、線量限度を超えた作業員の作業内容、線量限度を100mSvから250mSvに引き上げたが、建屋周辺の事故対応において非常に有効であったこと、一方で引き上げの手続きに時間を要したことを確認。
- 線量限度の検討が必要ではないかについて、福島原発事故の2ヶ月前に放射線審議会基本部会が「緊急作業者の線量限度を国際的に容認された推奨値(500mSv)との整合を図るべきこと」、「迅速な防護活動が可能なよう緊急性の程度に応じたいくつかの制限値として規定すべきこと」などの提言を出していたことについて委員から説明いただいた。また、現在は放射線審議会の議論が止まっており、本ディスカッションの情報が今後の議論の貴重な資料になるとの指摘があった。
(課題6)シビアアクシデント対策
- .議論のポイント
- 格納容器ベントの作業の問題点はどこにあったのか。
- 消防車による代替注水は有効であったのか。
- 事故データについて確認が必要ではないか。
- 原子炉や水素爆発の状態等はどうなっているのか。
- 海外のシビアアクシデント対策はどうなっているのか。
- 新規制基準で住民の被ばくを防ぐことはできるのか。
- シビアアクシデント時のプラントの状態を検知する計測系が不十分ではなかったのか。
- 今後の課題(今後検証する事項等)
- 隣接号機の水素爆発の影響等、複数号機の問題点
- 3号機の原子炉で発生した水素が4号機へ流入したメカニズム
- 放射能の最大の放出源となった2号機格納容器の破損状況
- 崩壊熱と実際に炉心に届いた注水量との比較検討
- 関東地方を汚染した3月20~21日の放射性物質放出の状況(主に3号機)
- 3号機のコア・コンクリート反応の進展状況
- 海外シビアアクシデント対策と対応状況
- 新規制基準で住民の被ばくを防ぐことができるのか。
- シビアアクシデント時におけるプラントパラメータ計装系(水位計など)の問題点
- シビアアクシデントに対応する専門組織体制
- 議論の状況(詳細は「議論の整理表」参照)
- 格納容器ベントの作業について、全電源喪失により電磁弁や空気作動弁の遠隔操作が不能となった、圧力開放板の作動圧が高すぎた、手順書は全電源喪失を十分考慮されていないものであった等の問題があった。また、隣接号機の水素爆発でベントの系統構成が遅れた事例があり、委員から複数号機の問題点であると指摘があった。
- 消防車による代替注水について、消防車による代替注水が想定されておらず手順書もなかった、漏洩が生じ注水量の1~4割程度(試算値)しか炉心に注水できなかった等の問題があった。早い段階で適切に注水ができていれば炉心損傷を避けられた可能性があり、委員から想定外の事象に対応する訓練も必要であるとの指摘があった。
なお、米国テロ対策(B.5.b)については国からも情報提供されておらず事業者は知り得なかったが、東京電力はテロ対策の国際的相場感が欠落し、可搬型設備による注水を想定していなかった。また、東京電力の海外の安全性強化策や運転経験の情報を収集・分析して活用したり、新たな技術的な知見を踏まえたりする継続的なリスク低減の努力が足りなかった。 - 事故データについて、プラントデータの詳細や公表の状況について確認した。
- 原子炉や水素爆発の状態等はどうなっているのか、これまでに判明している2号機格納容器の状況、4号機の水素爆発の状況、1号機の汚染水の状況について確認した。一方で、不明な点も多く、委員から継続して確認する必要があるとの指摘があった。
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