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福島第一原子力発電所事故を踏まえた課題~平成24年度の議論の整理~
現在、「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」において、福島第一原子力発電所事故の検証をしておりますが、このたび、平成24年度の議論の整理となる「福島第一原子力発電所事故を踏まえた課題」について報告いただきましたのでお知らせします。
福島第一原子力発電所事故を踏まえた課題(一部抜粋)
平成24年度の安全管理に関する技術委員会の活動から得られた「福島第一原子力発電所事故を踏まえた課題」について以下に示した。事故原因は技術的な要因だけでなく、「人災」との指摘もあり、技術的事項、マネジメントの観点および法制度の観点から課題を整理した。
4.1 技術的事項
シビアアクシデント対策
原子炉及び格納容器への注水及び除熱設備は、テロを含め不測の事態においても確実に原子炉を冷却するため、多様性を有することが必要である。また、原子炉への注水を適切に達成するために、原子炉の減圧機能を強化する必要がある。また、水位・温度等状態監視設備は、電源喪失や高温・高圧下でも原子炉及び格納容器のパラメータが計測できるように計器を整備するとともに、事故時の一刻を争う状況において効果的な状況把握・対策が可能となるよう、中央制御室の原子炉制御に関するマン・マシンインターフェイスについても一層配慮することが必要である。さらに、電源喪失時にも原子炉及び格納容器のベント、注水等の非常用設備・安全設備の操作が、中央制御室外から手動操作を含めた多様な手段で行えるよう改良が必要である。
また、金属反応及び水の放射線分解で発生する水素を早期に燃焼若しくは排出する設備、放射性物質の環境への放出を抑制するためにフィルタ・ベント設備等の設置が必要である。
地震対策
免震重要棟(緊急時対策所)は、気密性、遮蔽性の確保の他、要員の長期対応に必要な居住性にも配慮した上で、津波等、地震以外の自然災害にも対応できる施設であるべきである。また、設備の耐震性向上のためには、安全性確保に照らし、送電・変電網を含むB Cクラスの設備の見直しが必要である。
津波対策
過去に発生した津波の知見から、襲来し得る津波を評価し、防潮堤、水密化などの対策をとる必要がある。また、電源盤、ポンプ、非常用電源は、津波並びに津波以外(火災、地震、テロ等)の共通要因で機能喪失しない配置とする必要がある。
新たに判明したリスク
使用済み燃料プールは、不測の事態においてもプール水位を維持する設備、水位及び水温を把握できる設備を設けるべきである。また、集中立地のリスクに対応するため、隣接号機の事故により、事故対応に必要な作業の妨げとならないよう対策を講じるほか、汚染水などの発電所外への大量流出の防止策が必要である。さらに、巨大な自然災害の際に発生する機器・系統の共通要因故障等、外部事象に対する確率論的安全評価を見直し、原子炉施設の総合的な安全性を評価できるようにする必要がある。
放射線監視設備、SPEEDIシステム等の在り方
放射線監視設備は、どの様な状況下でも監視可能な設備となるよう改善を図る必要がある。また、緊急時において、避難・退避などの意思決定に役立つよう、恒設のモニタリング設備増設に加えて、可搬型式の設備を準備する必要がある。また、SPEEDIシステムは、複数の原子炉が故障することを考慮したシステムとする必要がある。さらに、オフサイトセンターは、複合災害、シビアアクシデントを考慮した施設とする必要がある。
発電所内の事故対応
非常用設備の活用のためには、電源喪失時のインターロックなど、システムの考え方の再整理が必要である。また、ベント等の非常用設備・安全設備の操作が電源喪失時にも行えるよう設備の改良が必要である。さらに、発電所内のコミュニケーションを確保するため、電源喪失時、自然災害時にも使用できる発電所内の情報伝達手段の構築が必要である。
過酷な環境下での現場対応
作業環境が高線量となる放射能漏洩時においても、制御や事故対応ができる施設に改善すべきであり、遠隔操作による状況確認や作業ができる機材も必要である。また、がれきが散乱して作業の支障となることを想定し、がれき除去等に必要な重機などを整備すべきである。
原子力災害時の情報伝達、情報発信
自治体への避難等の指示に必要な通信網に支障が生じないよう、確実な情報伝達手段の構築が必要である。また、自然災害時も住民1人1人に確実に情報伝達する手段が必要である。
4.2 マネジメントの観点
(シビアアクシデント対策)
減圧・注水・熱交換設備について、全電源喪失等を想定した手順書の整備や訓練、シビアアクシデントに対応する要員や専門家の育成が必要である。また、水位・温度等状態監視は、仮に計器が使えなくなっても、他のパラメータ等により原子炉の状況を把握する手段を検討する必要がある。プラント状況が把握不能時の迅速な減圧・注水の判断の在り方の検討が必要である。
地震対策
免震重要棟(緊急時対策所)の入退域管理や資機材調達等の後方支援を含めた運用方法の確立が必要である。
津波対策
津波の浸水経路を特定し、電源盤、ポンプ、非常用電源設備への影響を把握する必要がある。また、津波警報発生時における屋外活動の体制の構築が必要である。
新たに判明したリスク
使用済燃料プールのリスクから、使用済燃料を大量に原子炉建屋内の高いところに置かない運用を検討する必要がある。また、複数号機が同時に事故を起こしても、対応できる体制を構築するべきである。さらに、共通要因故障に備えるため、代替設備を用意するとともに、規格の統一により汎用性を向上させるべきである。この他、残余のリスクへ対応するため、事故は起こりえるという事故の教訓を踏まえ、新知見に照らして継続的な安全対策の改善が必要である。
放射線監視設備、SPEEDIシステム等の在り方
放射線監視設備について、どの様な状況下でも放射線を監視できる体制を構築する必要がある。また、SPEEDIとERSSの一貫した運用と、計算結果の公表のあり方を検討する必要がある。原子力防災については、事故は起こり得るという危機意識で対応すべきである。
発電所内の事故対応
非常用設備の活用、ベント操作、発電所内の情報伝達等について、全電源喪失、駆動源の喪失等を想定した手順書の整備、現場対応を含めた訓練が必要である。また、事故対応をバックアップするため、事故対応に必要な要員や資機材を、発電所外からどのように支援すべきか検討が必要である。
過酷な環境下での現場対応
高線量下で作業するための装備、手順を備える必要がある。また、がれきが散乱しているような状況であっても、協力企業のみでなく事業者そのものが直接対応できる体制が必要である。さらに、外的要因事象へ対応する訓練が必要である。
原子力災害時の情報伝達、情報発信
災害時の情報発信においては、リスクコミュニケーションの方法を研究し、政府・関係機関が伝えるべきことが正しく国民・報道機関へ伝えられるようにすべきである。不正確な情報発信や情報発信の遅れは隠ぺいとも受け取られかねず、不信感を招くだけでなく、事故対応、防護対策にも支障をきたすことから、受け手側のニーズも正しく把握し、極力迅速な情報発信に努めるべきである。また、自治体への避難及びヨウ素剤服用の指示について、住民が情報を正しく理解できるよう、放射線や原子力災害に関する基礎的な知識を普及啓発し、その上で、国や自治体の複合災害を想定した訓練をすることが必要である。さらに、原子力災害時の防護対応を行う基準(緊急事態の区分、放射線量等)については国民が納得できる明確な基準とするべきである。
原子力防災対策については、複合災害時にどう対応すべきか、自治体と住民の協力体制をどう構築していくのか等、県としても検討する必要ある。
原子力災害時の重大事項の意思決定
今回の事故における政府の危機管理が曖昧で、現実直視を欠き、適切な判断がなされなかった。海水注入等の原子力災害時の重大事項の決定について、経営への配慮等により遅れが生じないよう誰がどう対応すべきか検討しておく必要がある。また、ベント操作については、住民避難の確認等、操作の前提となる事項への対応、住民の被ばくにつながる操作の判断手続きを整備するとともに、フィルタ・ベントの活用方法を含め、事故当初に優先して取り組むべき作業や操作について整理しておくべきである。
原子力安全の取り組みや考え方
国は、安全に関する個別事項だけでなく、大局的な視点で安全対策を組立てることが必要であり、世界の動向を注視し、積極的かつ継続的に規制に取り込んでいくべきである。
事業者の継続的な安全向上の努力がなされるような事業者自身の仕組みの構築に加え、そうした姿勢が積極的に促されるような規制の在り方が必要である。また、経営者は、安全第一で現場が取り組む姿勢を重視すべきであり、人材育成等をとおして社員全員が安全を第一にする企業文化を創って世界に発信していくことも重要である。
国、事業者とも原子力発電所の安全については、一発電所の技術管理の問題ではなく、世界の安全保障につながる大きな問題ととらえて対応し、機器故障や自然災害だけでなく、テロに対する備えも必要である。米国のB.5.bのような考え方も取り入れて対応すべきである。また、原子力だけでなく、様々な分野・産業の知見、考え方を積極的に取り込んでいく姿勢が重要である。
4.3 法制度の観点
シビアアクシデント対策
シビアアクシデント対策やテロ対策を事業者だけに任せず国としての役割を明らかにして対応する仕組みが必要である。
シビアアクシデント時の作業に携わる要員の身分の取り扱いについて国として検討が必要である。
地震対策
免震重要棟(緊急時対策所)は事故対応の拠点となる施設であり、原子力施設上の重要度分類に位置づけるべきである。
津波対策
電源盤・ポンプ・非常用電源について、想定する津波高さに対する施設の裕度の考え方を整理すべきである。また、防潮堤、水密化などの津波対策施設についても重要度分類の基準の検討が必要である。
新たに判明したリスク
使用済み燃料プール、集中立地のリスク等、新たに判明したリスクに対応する安全基準を設けるべきである。また、耐震審査指針の「残余のリスク」にどのように対応すべきか検討が必要である。
放射線監視設備、SPEEDIシステム等の在り方
原子力災害対策指針を踏まえ、放射線監視の在り方について検討した上で、原子力災害対策上のSPEEDIシステムの位置づけも明確にすべきである。また、原子力災害対策指針を踏まえ、原子力防災対策におけるオフサイトセンターの役割や施設の在り方について検討する必要がある。
過酷な環境下での現場対応
高線量下において作業をすることも想定し、法律に規定する被ばく限度、及び限度を超えた場合の作業の在り方を検討すべきである。高線量下の作業に携わる要員の身分の取り扱いについて法整備が必要である。また、重要設備へのアクセスルートに加え、要員参集や資機材輸送に用いる発電所周辺道路の確保について、国等により確認されるべきである。
さらに、シビアアクシデントに対応する専門組織体制を個別の事業者だけでなく、国としても整備する必要がある。事業者は、欧米に整備されている事故対応を指導・助言するセーフティエンジニアの制度などを検討すべきである。
原子力災害時の情報伝達、情報発信
災害時の情報発信や住民への情報伝達について、原子力災害時の一元的な情報発信の体制や方法、発信すべき内容を予め定めておくべきである。また、自治体へ避難やヨウ素剤服用の指示を出すための意思決定の方法やタイミング等を具体的に定めて制度化しておくべきである。
原子力災害時の重大事項の意思決定
海水注入等、経営上大きな影響のある廃炉につながる判断を躊躇なく行えるよう、廃炉となった場合の保険制度などを国として整備すべきである。また、ベント操作の意思決定については、住民、自治体、関係機関との情報伝達などの仕組みを含めた危機管理体制の在り方を検討すべきである。
原子力安全の取り組みや考え方
規制と事業者の逆転現象が生じないよう、規制の技術レベルを向上させる仕組みが必要である。
また、国は「安全文化」という精神論を越えて、制度の面からも「安全文化」への取り組みをうながすような仕組みについて検討すべきである。
・福島第一原子力発電所事故を踏まえた課題~平成24年度の議論の整理~[PDFファイル/873KB]
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