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【第13回 ピックアップ!地域づくり人】 水落静子さん (十日町市/うぶすなの家)
今回ご紹介するのは、第12回の地域づくり人の大滝聡さんから紹介していただきました、水落静子(みずおち しずこ)さんです。
水落さんは、大地の芸術祭の作品の1つ「うぶすなの家」を中心に、十日町市内で地域づくり活動に取り組まれています。
「うぶすなの家」を中心に始まった地域づくり
うぶすなの家
2004年の中越大震災で、「うぶすなの家」がある十日町市東下組も被災し、田んぼや畑がひび割れるなどの被害が出ました。大地の芸術祭総合ディレクターの北川フラムさんは中越大震災での被害を目の当たりにし、震源地約5キロメートルの願入集落の一軒家を「土のアート」という切り口から「やきものでできた家・うぶすなの家」を考案しました。
「うぶすなの家」は「産土(うぶすな)」と書き、築92年のかやぶきの古民家です。雪国ならではの根曲がりの柱や床は土から育った木で建てられ、家の道具である釜戸、囲炉裏、お風呂場、洗面台は土から作られたアートの「やきもの」で装飾、食事は土から育った野菜や山菜をふんだんに使い、食器はもちろん「やきもの」の器です。
3年ごとに行われるアートトリエンナーレでは、陶芸家の作品を展示すること、地元の食材を提供することなどを提案しました。
このような経過を経て、複数の芸術家、プロデューサーの想いが1つの作品となった「うぶすなの家」が2006年に誕生しました。
地域の人たちにとって「うぶすなの家」は大地の芸術祭の作品という意味合いだけではなく、中越大震災の復興のための作品という想いがありました。
「中越大震災をきっかけに、地域の人たちの大地の芸術祭に対する考えが大きく変わったんです。中越大震災の復興の時に、外からたくさんの人がボランティアで助けてくれたから、今度は自分たちが大地の芸術祭で外から来てくれたお客さんを、笑顔で『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』の言葉で迎えよう、というのが東下組のお母ちゃんたちの基本になっています。」
地域のお母ちゃんたちの魅力が作品の魅力に!
水落静子さん
1995年から大地の芸術祭の会議には参加していて、2000年、2003年と実際の大地の芸術祭の様子も見ていた水落さんは、活動している人の頑張りが、活動していない地域の人に伝わりにくいというネックがあると感じていました。
「人間って不思議なもので、外でやっているときは何とも思わなかったけど、自分の地域で大地の芸術祭が開催されると思うと、何か手伝わなきゃ、なんとかしたい、という想いがあって。そうなると思い立った人が動くよりしょうがない!って。(笑)」
そして2006年、ついに水落さんが住んでいる十日町市東下組でも、「うぶすなの家」を作品として、大地の芸術祭が開催されることとなりました。これまで、地域の中には閉鎖的な部分があり、大地の芸術祭やボランティアのような地域の外からの活動や支援を、なかなか受け入れられない状況がありました。
しかし、中越大震災をきっかけに地域の人が外の人との交流を数多く経験しました。また、小学校のPTAで繋がりのあった地域の女性たちが中心となって、復興のための「まかないごはんづくり」活動に取り組んだことで、男性中心だった地域の振興会組織の会議にも女性が呼ばれるようになるなど、地域の人たちの考え方も次第に変化していきました。
中越大震災をきっかけに、地域の人口減は加速しており、「自分の子どもたちが将来地域に残り、一緒に住んでもらうためには、どうしたら良いのだろう。」という、地域のお母ちゃんたちには共通の悩みがありました。そのような悩みを抱えた地域のお母ちゃんたちに自信を与えてくれたのが、「うぶすなの家」でした。
「『うぶすなの家』には、いろんな地域からお客さんが来てくれて、作品もさることながら、『水がおいしい』『空気がきれい』という、お客さんの生の声をきくことができたんです。自分たちの地域がとっても良いところだっていう自信はもともとお母ちゃんたちの中にはあったんだけど(笑)、やっぱりテレビとかではなく、生でお客さんと話してみて、ちゃんと外の人が地域を認めてくれたことで、自信が確信へと変わりました。そこから、地域のお母ちゃんたちの中に少しずつ、地域の外に出て新しい活動をしてみようという雰囲気が生まれ、それが今も続いています。『うぶすなの家』に来てくれたお客さんたちが、私たちに自信をつけてくれたんです。うちじゃ、父ちゃんもじいちゃんも、普段つくっている料理のことなんか褒めてくれないけど、『うぶすなの家』でつくると、お客さんがおいしいって褒めてくれるから、もっと言われたい!って、はりきっちゃって。(笑)」
地域のお母ちゃんたちの中心となって、「うぶすなの家」をはじめとした地域での活動に携わってきた水落さん。活動していく中で、活動のやりがいを感じていた一方で、自身の家庭での仕事や体調などを考えると、ずっと今のメンバーが中心となって活動を続けることには限界があるとも感じていました。
「『うぶすなの家』が魅力ある作品であり続けるためには、自分の『うぶすなの家』に対する想いを新しい人に伝え、活動を続けてもらえるようにしていくことが、なによりも大切なんです。」
一昨年から新しいメンバーが加わった「うぶすなの家」。地域のお母ちゃんたちの想いや地域の魅力が、活動を始めた時よりも多くの人に伝わり、「うぶすなの家」を取り巻く人のネットワークを広げながら、次の世代へと繋がっています。
これからの十日町のために
現在は市議会議員として活躍されている水落さん。「農家民宿の推進」、「運転免許返納後の地域住民の交通手段の確保」、「農家の担い手となる移住者の受入れ」が目標となっています。
交通手段の確保については、運転免許返納後の移動手段に悩む地域の男性たちにとって、深刻な問題となっています。地域にはNPOが運営するコミュニティバスもありますが、利用者のニーズをどこまで受け入れるか、タクシーとの線引きをどうするかなど、課題も多くあると感じているそうです。
移住者の受入れについては、空き家と田んぼと畑を活用して、お試しでも、3年でも5年でも構わないから来てもらいたい、とおっしゃっていました。
「隣の家が一軒、空き家になって真っ暗だったところに、大学生が研究のために泊まりに来ているんです。空き家だった家に、夜、灯りがついていると、やっぱりいいなぁと、単純に思ってしまって。」
水落さんは、東下組地区の空き家をリフォームし、実際に大学生の受入れ活動にも取り組まれており、「地域に人を受け入れたい」、「農業の担い手を増やしたい」、という想いを実際に行動に移して活動されています。
今回の水落さんのお話から、地域がたくさんの人と繋がることで、元気になっていく様子が伝わってきました。次の世代へと受け継がれつつある「うぶすなの家」。これからますます、魅力あふれる作品となっていくことが期待されます。