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森林研究所たより 山腹工施工地におけるケヤマハンノキ植栽による植生誘導(林業にいがた2018年7月号記事)

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0058616 更新日:2019年3月29日更新

治山事業における森林再生を目的とした山腹工は、法切工などの山腹基礎工で斜面の安定をはかり、草本植物の導入によって表面浸食を防止し、次に早期かつ確実に森林を造成するために植栽工を行うのが一般的です。植栽工は目的とする種類を確実かつ短期間に成立させる特徴があり、新潟県ではこれまでスギや、ブナ、ミズナラなどの遷移後期種の広葉樹が植栽されてきました。しかし、必ずしもその植栽成績は良好といえず、現在も検討が続けられています。

ケヤマハンノキは荒廃地の緑化に適しており、治山事業で植栽されている樹種のひとつです。また、天然林では攪乱地にいち早く侵入して森林を形成し、その後は遷移後期種に譲る先駆樹種です。そこで、2006年秋に長岡市逆谷地内の山腹工施工地にケヤマハンノキの植栽を行い、2016年秋までの10年間、成育状況を調査しました。

ケヤマハンノキの樹高成長は旺盛で、3年後には5メートル、7年後には10メートルを超えました(図1)が、生残率は徐々に低下し、10年後には34パーセントになりました。しかし、10年後のケヤマハンノキの林内には多くの木本植物が認められ、樹高1メートル以上の木本植物がヘクタール当たり5,492本、中高木性以上に限ると1,942本発生していました。そして、樹高階分布は一般的な広葉樹林と同じようなL字型分布を示していました(図2)。種子散布様式別では、鳥散布樹種が約八割を占めており、山腹工施工地に森林が形成されることにより鳥が訪れ、種子を含んだ糞が散布されたと考えられます。

最も多く発生していた樹種は中高木性のミズキで、発生していた木本植物の三割弱を占めていました。そこで、12本のミズキを伐採し、樹幹解析を行ったところ、年平均樹高成長は30~50センチメートルと旺盛であったことから、今後はケヤマハンノキが衰退し、ミズキなどの木本植物を主体とした森林に遷移すると予想されます。

以上のように、山腹工施工地におけるケヤマハンノキの植栽は、周辺植生の誘導が期待できる可能性が示されました。しかし、ケヤマハンノキの生残率の低下は、植栽密度や地形によって異なることが知られており、必ずしもこの山腹工施工地のようにケヤマハンノキの衰退と木本植物の侵入がタイミング良く重なるとは限りません。そのため、ケヤマハンノキとブナなどの耐陰性の高い樹種の混植を行い、ケヤマハンノキによって早期に緑化するとともにブナなどの目的樹種を徐々に成林させ、あわせて周辺の森林植生からの侵入を期待する方法が望ましいと考えられます。

ケヤマハンノキの樹高成長(エラーバーは最大と最小を示す)の画像
図1 ケヤマハンノキの樹高成長(エラーバーは最大と最小を示す)

植栽10年後の樹高階分布の画像
図2 植栽10年後の樹高階分布

森林・林業技術課 武田 宏

 

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