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森林研究所たより スギヒラタケはどうなった?(林業にいがた2014年9月号記事)

印刷 文字を大きくして印刷 ページ番号:0058545 更新日:2019年3月29日更新

1 脳症発生

 2004年秋、急性脳症を発症した事例が相次いで報告された。患者は共通してスギヒラタケを食べていたことから、スギヒラタケが原因と考えられ、同年中に東北・北陸など9県で約60人の発症が確認され、うち19人が死亡した。

2 原因を探る

 国立感染症研究所などで実態調査が行われ、腎臓疾患者に被害が出ていることが判明したが、処方薬との関連性は見いだせなかった(2004)。また、村上総合病院の医師が、2004年だけではなく1998年にも5例同様の事例のあったこと等を発表した(2005)。
 東京都神経科学研究所は、脳神経の絶縁部分である髄鞘が破壊されており、脳内で電気回路のショートのような状態になっているとした(2005)。
 スギヒラタケの中の有毒成分の探索も行われ、金沢大学などでは、動物実験からタンパク質と推測(2004)、浜松医大などではシアン化合物(2005)、新潟大学、静岡大学などではアジリジン誘導体を発見(2006)等いろいろ報告された。
 筆者は2004年にスギヒラタケに異変が起きたと考え、その年の特異的な事象を洗い出し、台風による塩害で、シアン化合物を多く含むようになったという仮説を日本菌学会主催の公開講演で話をしたが、某大学の薬学部の教授からシアンで今回の脳症のような症状には絶対にならないと一蹴された(2005)。
 その後、2007年日本食品化学学会誌に国立医薬品食品衛生研究所穐山浩らの「スギヒラタケ摂取と急性脳症の関連についての一考察」という論文が載った。彼らもシアンに注目し、シアンイオン及びチオシアン酸イオンの定量分析を行った。その結果として、含有量に地域差があることやシイタケやブナシメジに比べ高濃度で、2004年のものに高濃度で含まれていたと報告している。一般にシアンイオンは体内では高酸素需要性組織に強い親和性を持ち、大脳皮質などに影響を及ぼすとされていることからシアンの可能性を述べている。
 さらに、致死量以下のシアンイオンまたはシアン化水素に長期にさらされていること(摂食、接触など)が原因と報告されている中央アフリカの風土病「KONZO」と呼ばれる熱帯性運動失調性神経障害に言及し、この疾病の症状が、今回の脳症の症状と似ているとしている。
 なお、極微量のシアンイオンは、摂食しても通常は体内で毒性の弱い物質に変換され、尿中に排泄することで無毒化されるとされている。しかし、肉などのタンパク質の摂食量が少ないと変換できず、中毒する可能性があるとして、高齢者の食事内容や腎疾患との関連性についても説明している。

スギヒラタケの発生の様子の画像
スギヒラタケの発生の様子

3 食べられるのか?

 脳症の原因がいくつか推測されたということで、未だ原因物質は特定されていない。
 2010年に秋田大学から「健常者に発症したスギヒラタケ中毒の一例」という報告が出ている。健常者でも中毒の可能性のあることを認識し、食べるのは今しばらく控えていただきたい。

きのこ・特産課 松本則行

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